2009年04月01日

ブログ移転のお知らせ


1年間、御愛顧いただき

本当にありがとうございます



≪線香花火≫…ささやかにときめいて

は2009年3月31日をもって

投稿更新を終了させていただきます




同じブログ名、

≪線香花火≫…ささやかにときめいて

http://freude.be



に移行させていただきますので

引き続き、よろしくお願いします



                 FREUDE
  




2009年03月31日

日本犬の場合

No.00429
zimukumi21


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「おまえ、取ってこいよ」「え〜?やだよう」「ちぇ、結局ボクが行かされるんだ・・・」











「本日はご多忙の所を、ありがとうございました。主人も喜んでいると思います。」
「では、行きますが奥さん、困ったことがあったら何でも言ってくださいね。
 私は入社した時から、鹿沼常務にはお世話になっておりましたもので。」
「小山さん、本当にありがとうございました…ううう。」

「小山部長、内線で宇都宮常務からです。」
「あ、ありがとう…はい、資材部の小山でございます。
 これは、常務、お疲れ様でございます。はい?今でございますか?結構でございます。
 おい、矢板君。常務室へ行ってくる。昨年の稼働率を、倉庫別にまとめておいてくれ。」

「失礼します。小山でございます。」
「ああ、小山君。前任の鹿沼さんは、早く逝き過ぎたようだね。
 彼とは一緒に仕事をしたことはないが、私と彼とは違うことを伝えておこう、と思ってね。」
「ごもっともでございます。常務には、九州支社での辣腕振り、お噂をお聞きしております。」
 
「はっはっはっ。九州ではいささか、強引に取られたかも知れんな。
 早速だが、スリム化を図って行こうと思う。君の部で5人、整理してくれ。」
「リ、リストでご、ございますか。か、かしこまりました。」
「この業績では仕方あるまい。私についてくるなら、5月中に実行したまえ。以上だ。」

「忙しいところ、済まんな。先ほど、宇都宮常務に呼ばれて行ってきた。」
「それで、常務は何を?まさか、ポジションパワーの誇示ですか。」
「足利次長、そのまさかだ。資材部で5人、クビにしろと言ってきた。
 俺たちは鹿沼常務派だったから、忠誠心を試されている。まるで犬のマーキングだ。」

「しかし、ウチと佐野課長の部署で5人ですか。きついなァ。」
「仕方がない。足利次長の部署で2人、佐野課長の部署で3人、5月末までに頼むぞ。
 それより問題は、鹿沼常務が残した爆弾だ。処理班が必要になる。」
「先月に依願退職した、真岡課長の使い込みですね?鹿沼常務が頭を抱えていたやつ…」
 
「真岡課長の業務上横領ということになっておるが、あれは鹿沼常務の私的流用だ。
 真岡君は片棒を担いだ、に過ぎん。しかし、そんなことも言うとれん。
 宇都宮常務は、いずれ見破るだろう。早く処理して、消してしまうんだ。
 スリム化も如才なく済ませ、挨拶に伺う。宇都宮常務派になれば将来は、安泰だぞ。

 佐野君、君は確か子供さんがいたよな?もう、いくつになる?」
「は。小4、小2と小1の3人、男ばかりです。」
「そうか。男の子なら頼もしいな。でも、3人だと何かと物入りだろう。
 どうだ、ここは一つ、君が那須倉庫の責任者として赴いてくれんかね?」

「わ、私が鹿沼常務の使い込みを、被るわけですか?」
「そう、とは言っとらんよ。君の優れた帳簿操作手腕で、だなァ
 商品を廃棄処分扱いにして欲しいんだ。処理が済めば、次長に引き上げてやる。
 可愛い3人のご子息を大学まで上げようものなら、大変じゃないかね?」




 

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あとがき

何事も藩のためぢゃ。
主君のために潔く、腹を切るのが武士の本分であろう。
心配いたすな。御妻女の面倒は藩でいたそう。
ここで本懐を遂げるのは、めでたきことなのぢゃ。



 最後まで、お読みいただきありがとうございました

  




2009年03月30日

フランス犬の場合

No.00428
zimukumi21


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フランス犬の場合 











フランス犬の場合は、あまりにおバカさんだよ。
本当のことを言っちゃダメなんだ。
みんな、やっているんだよ、悪いことを。
フランス犬の場合は、あまりにも寂しいよ。

誰にも、どうしようもないことってあるじゃないか。
本当のことを言ったら、オリコウになれないよ。
見てごらん。みんな、尻尾を上手に振っているだろ?
来る人、来る人にに愛想を振りまくから、売れていくのさ。

「パパァ。この子、元気がないのかなァ。あたし、この子がいいのに。」
「愛想が良くないから、やめておきなさい。他の犬にしたらいいだろ!」
「いらっしゃいませ。この子ですかァ?かわいいんですけど、
 あんまり愛想が良くないんですよねェ。頭はいい、女の子なんですよォ。」

私は犬だから、人間に従うよ。
でもね、誰でもいい訳じゃないんだ。瞳の濁っている人間は、好きになれない。
心の綺麗な人間が買いに来てくれたら、ちゃんと愛想良くするよ。
どうせ飼われるなら、心の澄んだ人がいいじゃない?

いつの間にか古株になっちゃった。
同じ頃に来て、この前やっと売れたチワワが言ってたよ。
早く売れないと、ちゃんと餌をもらえなくなるかも知れないよって。
でも、そんな目に遭った犬は、ここでは聞かないんだけどね。

そのチワワは美人じゃなかったし、尻尾を動かすのが下手だったんだ。
冴えないおじさんが買って行ったよ。嬉しそうじゃなかったね。
そのチワワは、潮時を知っていたんだろうな。
でも私は、もう少し待っておくよ。

人は見かけじゃ分かるもんか。綺麗な服を着ていても、自分のことしか
考えていない人間なんて、いっぱいいるんだよ。自分さえ、良ければいいんだ。
その証拠に、すぐケンカするじゃないか。自分の都合のために、平気で相手を殺すんだ。
その陰で食べる物もなく死んでいく人たちだって、大勢いるんだ。

フランス犬の場合は、あまりにも寂しかった。
独りぼっちの世界に残された言葉が、
独りぼっちの世界に、いつまでもささやく。
フランス犬の場合は、私もよく分かるんだ。

「こんにちはァ。いつも、お越しいただいていますよ、ね?
 この子ですかァ?愛想が悪いけど、頭のいい子なんですよォ。
 よかったら、抱いてあげますゥ?価格は、ご相談させて…あ、あの…
 あ〜あ、行っちゃった。あの女の人、いつもブツブツ、言ってるんだよね。」


 

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あとがき

日曜の早朝、ベトナム戦争に抗議して焼身自殺を図った女子学生がいました。
40年前のパリです。既に話題にもならないそうですが、
就学前の私でも覚えております。
純粋では生きていけないことも、事実なのでしょうが…


 最後まで、お読みいただきありがとうございました


  




2009年03月29日

イギリス犬の場合

No.00427
zimukumi21


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あれ、勢いで書いたけど…この子、男の子?












あなた、貿易に興味がありますか?
いやいや突然、失敬、失敬。
ボクは貿易に興味があるんです。
まだ、子供じゃないかって?そうです、まだ子供ですよ。

でも進路はもう、決めてあるんだ。
ボクの父は貿易商をしています。祖父も貿易商で、現役なんだ。
そして先祖もみんな、貿易商らしいんだ。
昔、カティサークに乗っていた先祖もいたそうだよ。

誰だい、カティサークは紅茶のキャンディ、だなんて言ったのは?
ちっちっちっ。おばさん、カティサークは帆船の名前なんだ。
東インド会社ってあってね、ご先祖様はそこの社員だったらしいんだ。
そのカティサークで、紅茶を運んでいたんだよ。

おばさんだって、お茶を飲むだろう?グレートブリテンの人間は、紅茶が好きさ。
え、おばさんはコーヒーばかり、飲んでるって?
お茶も飲んだほうがスマートになるかもよ。大きなお世話だって?えへ!
とにかく、グレートブリテンの人間は、紅茶がないと生きていけないんだよ。

ち、違うよ。犬の種類じゃないよ。それはグレート・デン。ボクたちの、賢い仲間さ。
グレートブリテンって言うのは、ウェールズやスコットランドを含めた、
ブリテン島のことなんだ。日本人はイギリスって言うけど正式国名じゃないんだよ。
正式名称は、United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandって長いんだ。

ボクたちはUKって短く呼んでいるんだけどね。
その中でもボクは、グレートブリテンの血が流れているんだ。
昔のグレートブリテンの人は、世界中に足を延ばして貿易で潤ったらしい。
だから、ボクも勉強して貿易商になるんだ。

お父さんから聞いたんだけど、貿易商は英語だけじゃダメなんだって。
外国語をいっぱい、勉強しなきゃいけないみたい。
ボクは日本で貿易の仕事、したいんだ。だって日本が好きなんだもん。
だから日本に来たんだ。お父さんもお母さんも、日本にいるんだよ。

ボクね、英語なら分かるんだけど、おばさんは分かんないよね?
だから日本語が分かるようにならなきゃって、勉強中なんだ。
「おすわり」「お手」「おかわり」…いっぱい、覚えたよ。
でも、このお店のおねえさんも時々、「ハウス」とか英語で言ってくれるんだ。

ボク、今はとっても小さいけど、お父さんもお母さんも大きいんだよ。
早くお父さんやお母さんみたいに、大きくなりたいな。
大丈夫だよ。お兄さんも大きいんだ。ボクもすぐ、大きくなれると思う。
そのためには、たくさん食べなきゃね。ごちそう、いっぱい用意しといてね。




 

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あとがき

介助犬などは共通語、として英語で告げるそうです。
紐などを引っ張る時に「PULL」、離すときは「GIVE」などと。
取って来させる時には、「TAKE」と教えるのですが
「新聞を取ってきて。」と指示する時は「TAKE新聞」だそうです。
でも読んでいるあなた、日本人なのにこれらの英単語が分かるのですものね。



 最後まで、お読みいただきありがとうございました

  




2009年03月28日

ドイツ犬の場合

No.00426
zimukumi21


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なあに、見てんのよ!飼うの、飼わないの?












ねえねえ、飼って〜。飼ってよ〜。
言っとくけど、買って〜って言ってんぢゃないんだからね。
むかし、おねえさんが真っ赤なおべべ、着せられて格子の向こうで
買って〜、買って〜って言ってたそうだけど、え?今でも、そんなとこあるの?

アタシには、ドイツ犬の誇りがあるから安売りはしないのよ。
あ、お店の人が値段を下げちゃった。
昨日まで148,000円だったのに、イヤになっちゃう。
だァれ?98,000円でもまだ、高いって言ったのは?

アタシたち、ドイツ犬は誇りがあるんだからね。
みんな簡単に、ドイツって言ってるけど
正式にはブンデスレプブリーク・ドイチュラントって言うの。
Bundesrepublik Deutschland って書くのよ。もっとも、アタシは書けないけど。

だって、仕方がないでしょ?人間と違って、手がないんだもん。
アタシにだって手が付いてれば、アルブレヒト・デューラー顔負けの絵だって
描けちゃうんだからね。え?負けず嫌いだって?
そうよ。それが、ドイツ犬の誇りなのよ。

アタシたちって、みんな賢いんだからね。そりゃ、例外のすかたんもいるけどさァ。
すぐ芸だって覚えちゃうし、ごほうびもらったら「だんけしぇ〜ん」って吠えるの。
でも、日本人にはワン、としか聞こえないみたい。
やっぱり、日本人はドイツ人ほど優秀じゃないのよね。まっ、仕方がないか。

ドイツ犬の中でも、アタシたちミニチュア・ダックスフンドが一番、人気があるの。
だって、こんなにかわいいんだもん。と〜ぜんよねェ。
嘘だと思ったら、ジャパン・ケネル・クラブの登録数を見てみるといいわ。
え、去年はプードルやチワワに負けてる?おっかしいわねェ。

とにかく、ドイツは優秀なの。悔しかったら日本でベンツ、作ってみなさいよ。
BMWだって運転してる人、ワイパーを動かしながら曲がってるくせに。
だいたいBMWに乗っていて、BMWが何の略か知らないんだからァ。
アタシたち、ドイツ犬は誇りがあるんだからね。

作曲家だってバッハもベートーヴェンもブラームスも、ドイツ人ぢゃないの。
クラシック音楽って300年以上、聞かれているのよ?
ピンクレディーの振り付けだって、若い人は踊れないぢゃないのよォ。
すばらしい音楽は、み〜んなドイツぢゃない。

え?そのドイツ人が今、クラシック音楽を聞かないぢゃないかって?
そ、そりゃ、みんなが聞きに来ないから、コンサートホールも経営難になっているわよ。
だから、何なのよ。アタシたち、ドイツ犬は誇りがあるんだからね。
あら、もう、お昼寝の時間だわ。仕方がないでしょ。まだ子供なんだから。フンだ。

 

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あとがき
「欧米では…」などと言います。
日本と欧米の、習慣の違いなどを云々するのですが、
欧米とひっくるめても、個々に違いがあります。
また、ドイツだって地域差があります。日本と言われても、北と南では異なります。
神戸だって、こんなとこもあればあんなとこも。



 最後まで、お読みいただきありがとうございました


  




2009年03月27日

土筆の告白

No.00425
zimukumi21


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土筆が告白したら、ご近所はうるさいだろうなァ…











「本日はありがとうございました。お気をつけて。」
深々と頭を下げて見送る後ろから、佳代が息を切らしてやってきた。
「誠…司おぼっちゃま。比治…山様は、もうお帰…りになら…れたのです…か。」
「ああ。たった今、お帰りになったよ。頭取が最後だ。」

最後の客を見送る方向、既に車は見えなくなっていた。しばらく見ていたが、向き直る。
「それより佳代さん、ダメじゃないか。走ったりして。
 母さんから聞いているけど、血圧が高いんだってね。無理をしないでくれよ。」
「申し訳ありません、誠司おぼっちゃま。比治山様が、お召し物をお忘れになって。」

「ああ、マフラーか。頭取には明日、お会いするから渡しておくよ。もう入りなさい。」
「そうでしたか。それは、ようございました。一安心でございます。」
「佳代さんのおかげで、法要も無事に終わったよ。本当にお疲れ様だったね。
 父さんも草葉の陰で喜んでいることだろう。ところで、兄さんを見なかったかい?」

「和彦ぼっちゃまでしたら、先ほど戻られて厨房にお見えになりました。」
「厨房に?」
適度に湿らされた飛び石を、規則正しく歩きながら誠司は、訝しげに前を見た。
遅れて歩く佳代が踏む玉砂利の音が早くなり、誠司の前で玄関を開ける音に変わった。

「母さん。お疲れ様だったね。今、最後の比治山頭取を送ったところなんだ。
 マフラーをお忘れになったことに気付いたらしく、佳代さんたら走ってくるんだよ。
 血圧が高い、と聞いているし、あまり無理をしないで欲しいのだけれど。」
母を労いながら、奥へ進んだ。誠司が厨房に向かうことは珍しい。

「まあ、和彦おぼっちゃまたら手際がよろしいのですね。あら、誠司おぼっちゃま。」
「明美さん、兄さんは何を作っているんだい?」
「おお、誠司か。お疲れさん。今、土筆を採ってきたところなんだ。」
手際よく菜箸を扱う和彦を傍らで見つめる誠司は、嬉しそうな兄の横顔に驚く。

「兄さん。もう、そろそろ教えてくれないか。なぜ、隠居する気になったんだ。」
「ほおら、できたぞ。明美さんも、もう置きなさい。さあ、誠司も飲み直そう。」
料理が残された20畳の和室に向かう和彦に、誠司が従う。
できたばかりの、土筆の玉子とじを使用人の明海が運んだ。

「兄さんの辣腕には随分と憧れたものさ。正直、嫉妬さえ覚えた。それが、どうして。」
「ほら、冷めちまうぞ。いいから、食べてみろよ。
 どうだ、ほろ苦くておいしいだろ。この緑色の部分に胞子があって、これがいいんだ。
 俺は胞子がなくなった土筆なんだ。それに気が付いただけだよ。」

兄が採り、兄が作ったそれを口に運びながら、弟は黙って聞く。和彦は続けた。
「父さんの遺産は、おまえがすべて相続しろ。俺は、何にも要らない。
 たいして収入がある訳でもないが、困れば野たれ死ぬだけさ。あの頃の俺は鬼だった。
 晴釣雨読の今が本当の俺なんだ。東雲グループの総裁は、おまえが適任だ。」

 

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あとがき

土筆って、ありそうで見つからないんです。
歩いていたら見つけたりするんですけどね。
そんなもんじゃないかな。
見つけたい時は見つからず、どうでもいい時は、目に付くのです。
も、もちろん、土筆の話ですよ。やだなあ。


 最後まで、お読みいただきありがとうございました


  




2009年03月26日

モクレンのつぼみ

No.00424
zimukumi21


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これが開く時にバラになったら、おもしろくありません? 


「あ〜、終わった終わった。」
「日野、待ってくれ。」
「おお琴浦か。おまえ、不当事項の無効ってトコ、分かったか?」
「ああ。何となくだけどな。約款の掲載義務は、ないんだよな。」

「それより、たまには公園で食べないか?」
「そうだな。天気もいいし。あ、南部ェ。こっちだ、こっちだ。」
「八頭も一緒じゃないか。どこに居たんだ。探したんだぞ。これで、揃ったな。」
「ちょっと、トイレにな。今日は岩美も来てるんだよ。お〜い、こっちだこっちだ。」

社が保険を扱うようになったため、研修メニューに昨年から損害保険が加わった。
いくつものメニューで、絶えず研修が行われる。
社員の教育に心血を注いだ経営者の、前向きな取り組みと言えよう。
担当業務を離れ、研修に集まる社員たちはそれなりに、ありがたみを感じていた。

「八頭、おまえは法学部だったから得意だろう。」
「苦手な分野じゃないけど、忘れている部分は焦ったりするよ。」
「おい、みんな。今日はファミレスをやめて、弁当にしないか?」
「それいいな。お、ワゴンで売ってるし。で、どこで食べるんだ?」

「そこを左に曲がって少し歩けば、公園があるんだよ。いい雰囲気なんだ。」
「今日は天気もいいし、いいんじゃない?」
「あ、おれ、この魚のほう、ください。500円ね。あるある。」
「おれ、ハンバーグ弁当のほう。みんな500円なんだね。うまそうだな。」

5人はめいめい、弁当を買った。暖かくなれば、オフィス街で弁当を売っている。
ワゴンで陳列されたそれらは、ふりかけやお茶のサービスをふるまう。
無名ブランドの缶は、仕入れも格安なのだろう。ふりかけのパックも業務用に違いない。
いくつかのメニューを用意し、買い手の目を引く美しい盛り付けが工夫されていた。

「ここがいいな。座ろ!もう春だなァ。あれ、ネコヤナギっていう花じゃないのか?」
「モクレンだよ。白いつぼみだから、これはハクモクレンだな。」
「琴浦、おまえ、何でも詳しいな。花まで知っているのか。」
「実家が造園業なんだ。俺たち、モクレンの咲くのも忘れて働いていたんだなァ。」

「がむしゃらだったもんな、この1年。俺たち、ずっとこうやって会いたいな。」
「そうだよな。誰かが昇格したって、対等でさ。第4木曜だし、木曜連盟ってどう?」
「南部。それより、ちゃんと見ないとおまえ、醤油をめしにかけてるぞ。」
「あ、いっけね。俺、薄味なんだよな。みんな、木曜連盟で決まりっ。いいよな?」

同期入社の彼らは、それぞれ違った配属になっている。入社2年目の社員たちだ。
第4木曜は彼らの研修日。こうやって本社の研修室に、早朝から集まる。
研修後、食事をして茶を飲むくらいの時間を、暗黙の了解として認められてきた。
三々五々、このあと在籍営業所に戻る。爽やかな風が、つぼみの枝を揺らした。
 


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あとがき

サラリーマン時代、おかげさまで
頻繁に研修を受ける機会に恵まれました。
いろいろと学ぶ幸福もありましたが、終了後の雑談が楽しかった記憶があります。
どうしているんだろうな、あいつら。
総理大臣になったやつも…いません、いません。

(この画像は読者の方から、著作権を譲渡していただきました)



 最後まで、お読みいただきありがとうございました


  




2009年03月25日

月は東に日は西に

No.00423
zimukumi21


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月はおぼろに東山 











珍しく早く帰ってきた、と思ったらいきなり浴室へ行く。
と思ったら追い炊きのスイッチを入れて、上着を脱いだ。
ぽかん、と口を開けたまま夫を目で追った。
夫が無造作に置いた上着を、久美は思い出したようにかたずける。

クローゼットから戻った久美は、浴室に向かう前に夫が置いた、
ダイニングテーブルの上の袋に、今ごろ気が付いた。
「あんた、これ何なの?」
忙しなくチャンネルを替える夫が、リモコンを離さない。

「たまに早く帰ってきても、見るモノある訳ないか。」
妻の問いに答えもせず、独り言のようなつぶやき。
「商店街で菜の花の辛し和え、買って来たんだ。」
ようやく妻に答えた頃には、チャンネルを一周していた。

普段からマイペースで家事の何もしない。それがいきなり、浴室のスイッチだ。
おまけに惣菜を買ってくる。しかも、駅からは遠回りの商店街。
何かあったのか、疑わない妻が存在するとしたら、よほど無関心なのだろう。
「どうかしたの?具合でも悪いのかしら。」

「そうそう、ビールは冷えてるか?」
整合性のない会話を続けているうちに、風呂のブザーがなった。
「3本冷やしてあるけど、足りるでしょ?」久美は、冷蔵庫を開いて確かめた。
「風呂、入ってくる。」はたして聞いているのか、敬三は浴室へ行く。

口数の少ない敬三を、たいして問題視せず夫婦を続けたのだ。久美も動じない。
パートから帰宅したばかりであったが、如才なく夕食の用意をした。
一人娘が入寮した今、二人だけの生活に慣れてきた頃でもあった。
あり合せの野菜を炒め、夫の買ってきた辛し和えを器に盛る。

豆腐を嫌いな男は少ない。移し変えて、鰹節を冷奴と辛し和えにかけた。
「菜の花を 墓に手向けん 金福寺…か。」
訳の分からないことを言いながら、夫が湯気を伴って現れる。
どっかと腰を下ろし、手酌で注ごうとした。久美がそれを奪って、酌をする。

「今日も寒かったな。32年前の今日、親父が亡くなったんだ。
 寒の戻りで冷えたんだろう。外に出た途端、目の前で倒れたんだよ。」
「そうだったの。私、あんたのお父さん、知らないわ。」
「遅い子だったからな。親父が45歳の時の子だ。お袋が38でさァ。」

「そう。お父さんの命日だから早く帰ってきたのね。」
「親父が、菜の花の辛し和えを好きだったこと、思い出したんだよ。
 俺も随分、親不孝だな。そうだ。来月、連休が取れたら京都に行かないか?」
「どうしたのよ、急に。いいわよ。まだシフト、決まってないから。あ、ビールね。」
 

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あとがき

与謝蕪村は菜の花を、こよなく愛したようです。
「菜の花や 月は東に日は西に」
「菜の花を 墓に手向けん 金福寺」
「菜の花や 摩耶を下れば 日の暮るる」
「菜の花や 鯨もよらず 海暮ぬ」
京都や神戸の地名、そして鯨は和歌山ではないかと言われ、
各地で菜の花を歌っております。
よろしいですな、辛し和えにビール。え、一句ですか?無理無理!

(この画像は読者の方から、著作権を譲渡していただきました)




 最後まで、お読みいただきありがとうございました


  




2009年03月24日

後悔させぬ雪柳

No.00422
zimukumi21


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雪柳 












雪村淑子の後悔は、駅前の駐車場を降りた時に始まった。
借りている月極の枠にすんなり停められず、二度三度の位置決定に身体も熱くなっていた。
やっと駐車位置が妥協に達したのち、ドアを開けた瞬間に寒気を覚える。
車内に暖房を利かせ過ぎたせいもある。汗が冷えるのを襟元の侵入者で感じた。

2度目の後悔も、すぐに訪れた。駅のホームに、冷たい風が通り抜けたのである。
少しばかり暖かい日が続き、気を許してしまった。そのくせ、四国の友人には告げていた。
「弟が来週、金沢へ出張なの。寒くないかしら?」
「最近は暖かいけど、また寒の戻りがあると思うわ。4月に積もることもあるのよ。」

週末の会話を思い出し、会話中も石油ファンヒーターの時間延長ボタンを押したことまで
ついでに思い出した。そのくせ今朝、仕舞ったコートを出すのを思い出さなかったのは、
太平楽な淑子の性格を裏付けていた。揺れる電車の中、流れる景色を見ながら苦笑する。
そして駅を出た時に、淑子を身震いさせる強い風が3度目の後悔を運んできた。

気温を忘れるか、のような挨拶を互いに交わし、淑子は席に着いた。
膨大な伝票のデータを打ち込む作業であったが、随分と肩の凝る作業でもあった。
かなり昔ではあるが、商業簿記1級を取得している淑子にとって、納得の職種ではなかった。
身の程を知ることを美徳と呼ぶのなら、淑子のそれは聖人君子とも言えよう。

再就職の女性にとって正当評価など、くじを引くようなものである。
年齢と能力は無縁なのかも知れない。若くても使える女は使えるし、何年やっても
ダメな者はダメ。もちろん、女性に限ったことじゃない。
太平楽な淑子は就職においても、物分りのいい女であった。

結婚に失敗した経験のある淑子にとって恋愛は、テレビドラマの範疇であり他人事であった。
わずかな我慢さえすれば楽しい職場である。そう、互いのシワさえ見て見ぬふりをすればいい。
月に2度の陶芸教室と、たまにジャズを聴くことが幸せの、ささやかな暮らしであった。
同僚たちに誘われて、週末であることだし帰りは最終バス、とその日は決めていた。

割れはしないか、と思わせるほど景気のいい音でジョッキをぶつけ合い、それぞれは
生ビールを飲み干す。キムチだの枝豆だの好き勝手、注文して笑い声が響いた。
遅れて登場したのは、能登課長であった。職場では3人しかいない男性の一人である。
「ごめん。今日は車で帰らなきゃいけないから、ウーロン茶にしとくよ。」

卒業して入った会社で、希望に燃えていた淑子は納得の部署にいた。
何もかも順調に見えたが、先輩に見初められて快諾する。その時は、マザコンとも知らずに。
挙式までに見え隠れした不幸は、太平楽な淑子の判断を鈍らせる。やはり離婚してしまう。
社内結婚であったから淑子から身を引いた。それは大きな損失では、あったが。

「雪村さん、送っていくよ。方向、同じだったよね。」
車の中を明るくするに十分な花が、後部座席の下に。能登が出張先から持ち帰った物だった。
眼中にこそなかったが、いやではない。能登課長の求婚に躊躇は2歳、若いだけ。
このあたりでは見かけなくなった雪柳が、今度は後悔しないはずの暖かさを、淑子に与えた。








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あとがき

近所に雪柳が咲いていました。
よく見かける花です。どこにでも咲いている、と思っていましたら
自生種は石川県で、絶滅危惧I類に指定されているなど
ところが変われば違うようです。調べてよかったァ。


(この画像は読者の方から、著作権を譲渡していただきました)



 

 最後まで、お読みいただきありがとうございました


  




2009年03月23日

マンサクが咲いて

No.00421
zimukumi21


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おらの花はいつ咲くだ? 












「ダメだわ。もう無理ね。あなたァ、ショウズを国産、やめない?」
「際どいところ、投げてるなァ。岩隈のヤツ、さすがだぜ。」
「あなたァ、聞いてるのォ?」
「ああん?障子はまだ、張り替えなくていいだろ。お、ストレートを見逃したな。」

「障子じゃないわよ。ショウズよォ。アズキのことよ。」
「葉月はまだ、学校だろ?部活、頑張ってるようじゃないか。あ、フォアボールだ。」
「職人に経営は無理ね。売上は確実に下がっているし、国産じゃ無理だわ。
 もう潮時ね。輸入物に変えなくちゃ、やっていけないわ。」

「よし、イチロー、頼んだぞ。よし、やった。出塁したぞ。
 お〜い、かあさん。俺は作るだけだから、社長は監督のかあさんに任せたぞォ。」
「何が社長よ。夫婦でやってんだから、あなたも考えてくれなきゃ。
 あ、電話だわ。はいはい、今出ますよ。はい、高岡製菓です。え?もしもし?」

夫の運転で、病院に駆けつけた。待合室には、目を真っ赤に泣き腫らした娘がいた。
興奮して何を言っているのか分からない妻に、車内でそれ以上、聞くのをやめていた。
妻も今、電話で知らされたばかりで、要領を得ていないのかも知れないからである。
よほど不安だったのであろう。母の姿を認め、抱きついた瞬間にわっと泣き出した。

「・・・とにかく一安心ですね。では、よろしくお願いします。」
泣きじゃくる娘の背中を庇おうとした時、医師と話しながら担任が現れる。
「ああ、葉月ちゃんのお父さんとお母さんですね?担任の黒部です。
 どうやら大丈夫なようです。反省していますし、あまり叱らないであげてください。」

思春期のささいな出来事は、当事者にとって大変なことである。
たわいもないトラブルから、相手の生徒は階段を転げ落ちる。打撲で済んだのが幸い。
悪いのは、どうやら相手のほうらしいが親元が遠方のせいもあり、
治療費以外に九州からの交通費も負担することで、ようやくの和解が成立した。

「申し訳ありません。来月末には、お支払いできると思います。」
「お父さん、腰の具合はどう?うん…実は…また…うん。300万円、いや100万円でも…」
「恵ちゃん、いつもごめんね。5月には返せる宛てがあるんだけど…」
「仁美、ご主人は相変わらず?そう。大変ね。あのね、こんな時に言うのも…」

「お母さん、見舞いにこれ、持って行っていいでしょ?」
若いことはすばらしい。ささいなトラブルではあったが、もう仲直りしている。
しかし財布に残した爪痕は支払い予定も狂わせ、あたかも雑菌が入った傷痕であった。
督促状の束、催促電話の嵐。肩をほぐしながら帳簿を閉じる。窓の外に目をやった。

「マンサクの花が咲いたのね。ダメだわ。ホントに万策、尽きたってカンジ。
 お帰りなさい。あなた、店を売らなきゃ無理みたい。あたし、勤めに出るわ。」
「おい、喜べ。後輩の魚津が、ウチの和菓子ブースを出してくれるらしいんだ。
 出展費用は全部、向こう持ちだ。それとマンサクって、まず咲くって意味らしいぞ。」








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あとがき

植物が人間の機嫌なんて、取ったりしてくれません。
かってにあやかったり、悲観したり。
でも都合よく解釈して、明るく思うことができるならいいじゃありませんか。
あ、金のなる木が枯れてる!

(この画像は読者の方から、著作権を譲渡していただきました)



 

 最後まで、お読みいただきありがとうございました


  




2009年03月22日

馬酔木ばかりになれば

No.00420
zimukumi21


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馬酔木 












昔々、ある星に肉食動物と草食動物がいました。
肉食動物は主に、自分で狩をして餌を捕りました。
そして草食動物は、与えられる餌を食べていました。
肉食動物は植物を食べることができ、草食動物も肉を食べます。

生まれながらに肉食か草食か、決まっている訳ではありません。
ギムキョーイクが終われば、子供は自分で食べ物を探せるのです。
ギムキョーイクを終わるまでは、親が子供に食べさせなければいけません。
ギムキョーイクが終わっても、親に食べさせてもらっている者もいます。

草食動物になるには、試験が要りました。
いろんな草食動物が居ましたが、餌を与えてもらえるため、
みんな、成りたがります。難しい試験を合格すると、上級草食動物になれます。
そのなかでも偉い者は高給、いや高級官僚草食動物になれる者もいました。

草食動物になるには、みんな試験を受けても落ちるので、子供の頃から
勉強したりします。子供を草食動物にさせたがる親も、少なくありません。
オンキューと言って、たくさんの餌を後でもらえるからです。
高給、いや高級官僚草食動物はアマクダリと言って、それはたくさんもらえます。

でも草食動物の親戚だと、簡単に採用されることもあります。
エンコと言って、試験を受けなくても、草食動物になれたりします。
そして、この草食動物たちの餌なのですが、実は肉食動物が集めます。
中には一緒に集める、働き者の草食動物もいますが、働かない者が多いのです。

この働かない草食動物は、みんな口がうまく、ああ言えばこう言うのです。
中には、働かない理由ばかり考えている草食動物もいるのです。
1年間、働かないのに餌をもらっている草食動物も、少なくありません。
疲れたりイヤになったら、家に帰ってしまう草食動物もいるのです。

その星は、いろんな植物が生息して美しい星でした。
緑が生い茂り、芽がふいて花が咲きます。
なかには、美味しい実をつける植物もいました。
肉食動物は眺めるだけで食べず、草食動物のために育てたりします。

草食動物は美味しい植物が好きです。肉食動物のように働かなくてもいいのです。
そこに生えている植物を食べていればいいのです。
肉食動物は、自分で働いて食べ物を探すため、植物を食べません。
植物がなくなるのは、すべて草食動物の仕業なのでした。

この草食動物は、汗備(アセビと読みます)が嫌いです。
汗をかいて備えなくても、肉食動物から取り上げればいいのです。
食べる植物の中で、このアセビばかりが残るのです。
アセビが多く残っている星は、働かない草食動物が多いのでした。







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あとがき

過労の公務員を知っています。過労死された方もいます。
一方で、働かない公務員をたくさん、知っています。
さあて、年貢米比率を上げましょうか。

(この画像は読者の方から、著作権を譲渡していただきました)


 

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2009年03月21日

ラナンキュラスを持ち帰り

No.00419 zimukumi21


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ラナンキュラス 












「ウルバヌス社長。東ローマ株式会社のアレクシオス社長から、お電話です。」
「うむ。つないでくれたまえ。」
秘書は社長の言葉に、忠実に従う。怪訝そうな顔で、受話器を掴んだ。
「ああ、ウルバヌスだ。アレクシオスさん、この前のニアピンは惜しかったね。」

「ウルバヌス2世さん、コンペではお世話になりました。」
「あの時は入ったか、と思ったよ。それで今日は、どうしたんだね?」
「ええ、実は。リン鉱石を採りに行きたいのですが、先月からセルジューク社が
 道を占拠して通してくれないのですよ。お力添えいただけませんか。」

「うん?国道アナトリア線のこと?セルジュークさんが通さないのか。
 アレクシオスさんは確か、エルサレムに支社があったよね?」
「そうなんです。インターネットはつながるのですが、行き来できないんですよ。
 ウルバヌス2世幹事長のほうから、何とか言っていただけませんか。」

「そうか。早速、見に行かせよう。手を打っておくよ。」
「それでは、宜しくお願いします。」
左手に受話器を持ったまま、ウルバヌスは電話番号を押した。
「もしもし、十字社さん?ああ、ローマのウルバヌスです。はいはい、毎度。」

「こ、これはウルバヌス2世様。いつも、お世話になっております。」
「あのね、この前の話なんだけどさァ。幹事になれるよう、ウチが推そうかなって。
 推薦しようかなって思ってんの。そのほうがお互い、すっきりして良くない?
 うちもさァ、御社と連携できるワケ。ちょっと、お願いがあるんだよね。」

「それで、当社は何をすればよろしいのでしょう?」
「さすが、話が早いよね。あのさァ、エルサレムのあたり、今ややこしいでしょ。
 隣地境界でもめてんのよ。お互いが所有権を巡って、主張してるみたい。
 ウチはどうでもいいんだけどね。ただ、アレクシオスさんに泣きつかれちゃってね。」

「趣旨は分かりました。ですが、当社が伺っても耳を貸すでしょうか。」
「分かんないけど、無理でもいいんだよね。行ってくれたって事実が欲しいワケ。
 やるだけやったってカンジ?行くだけでいいからさァ、聞いてくれる?」
「分かりました。やるだけやってみましょう。幹事推薦の件、宜しくお願いします。」

「セルジュークさん、なぜ通してくれないのですか。
 私たちは、どうしてもエルサレムに行きたいのです。行かなければならないのです。」
「十字さん、どうせフランクたちに行って来い、と言われたのでしょう?
 特にアレクシオスの従業員は、質が悪いんですよ。無法な行いばかりなんです。」

「それで通行制限なのですか?でも、私たちは十字の人間です。日本人です。」
「残念ですが、セルジューク・トルコ人以外は通行できません。
 お気の毒ですが、お引取りください。こうするより、他はないのです。
 せっかくですから、ラナンキュラスの種を差し上げます。きっと綺麗な花が咲くでしょう。」
 
 







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あとがき

宗教の主張は、それなりの大義があることを認めます。
でも、血を流す必要はないのではないでしょうか。
古今東西、この類に賛同できない私がいます。

(この画像は読者の方から、著作権を譲渡していただきました)



 最後まで、お読みいただきありがとうございました
  




2009年03月20日

彼岸に至れり

No.00418
zimukumi21


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ヒガンザクラ 












これより本所石原町、指物師寅吉殺害の一件について吟味を致す。
一同の者、面を上げい。
さて京橋炭屋河岸住人、おさと。
寅吉を殺害し亡き骸と共に暮らそうとした、と長屋の住人から訴えが出ておる。

そこもとの奇行に長屋の皆も閉口した上での訴え、と見るが
おさと、これに相違ないか。
「はい。相違ございません。」
「死んだ寅吉を押入れに入れて、気味が悪りぃったらありゃしませんぜ。」

これ。控えい。お白州であるぞ。
それでは聞こう。本所石原町、六軒長屋の住人、辰三。
そのほうは、おさとが寅吉を殺害するのを見たのか。
構わぬ。有態に申してみよ。

「へい。寅吉はいいヤツでした。
 愛想もよく指物の仕事の合間に、よく散歩をしておりやした。
 いつ頃か、この女と連れだっているのを、ちょくちょく見掛けるようになりやした。
 おおかた、この女が寅吉をたぶらかしたんでございましょう・・・」

「辰三。控えい。場所を弁えぬか。」
よいよい。続けるがよい。
「へい。この女は、やがて寅吉の家に住み着いたのでごぜえます。
 寅吉は、この女に邪魔されて仕事がはかどらなくなっておりました。」

おさとに訊ねる。奉行の調べでは、寅吉にぞっこんであったそうだな。
足しげく通い、カレーやグラタンなど手鍋を立てていた。と聞く。
日に100通を超える携帯メールも、送っていたそうではないか。
住むに当たっては、そのほうから押しかけた、とあるが相違ないか。

「相違ございません。」
辰三、同じく六軒長屋住人、平助。そのほうらは、寅吉を誘い出し
吉原の遊郭「さくら」に通い詰めたことも、奉行の調べは付いておる。
一途に寅吉を想う、おさとの気持ちを踏み躙ったのも事実であろう。

「へへえ。恐れ入りやしてございやす。」
この日、止めようとするおさとの手を振りほどき、辰三たちについて行こう、とした。
思い余って包丁で後から、寅吉の背中を刺した、ということだな、おさと?
「その通りでございます。」

裁きを申し渡す。寅吉を殺害に及んだ、おさとの罪は免れぬ。
しかし寅吉を想うが故の犯行であり、寅吉にも非があるを奉行も分からぬではない。
亡き骸をいつまでも離さぬ想い、察するにあまりある。
よって終生の江戸処払いを命ずる。寅吉を懇ろに弔ってやるがよかろう。





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あとがき

奥さんの愛情を、大切にしましょう。
むげに扱うと、背中から刺されるかもしれません。
毒を盛られるかも知れません。
メールが来たら、ちゃんと返事をしましょう。
おいしくなくても「これ、おいしいね。」って言いましょう。
そうでなくても「綺麗だね。」って言ってあげましょう。
冷めても「愛してるよ。」って嘘をつきましょう。

(この画像は読者の方から、著作権を譲渡していただきました)


 最後まで、お読みいただきありがとうございました
  




2009年03月19日

加湿が根を腐らせて

No.00417
zimukumi21


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ノースポール 












「芳樹君。花の種、あげる。これは手入れが簡単だからね。」
「茂美さん、ありがとう。明日、休みだから植えてみるよ。」
「ノースポールって言うの。根腐れするから、過湿に気をつけてね。」
「うん、分かった。ありがとう。ノースポールかァ。」

勤務を終え、最寄の池袋駅まで一緒に歩いた。互いに違う方向に帰る。
彼女は小田急線だから、新宿で乗り換えだ。芳樹も家路を急ぐ。
「間に合うかなァ。姉さん、8時から9時って言ってたし。」
8時半には帰れそうだ。電話があるはずだから、安心なのだが。

成増の駅を降りた時、8時に10分ほどあった。
携帯電話の時刻表示を確かめると共に、着信がないのも確認した。
バイパスに近い芳樹の住む場所は、自転車でも10分ほどかかる。
何とか8時に帰れる、と思った矢先、足止めを喰らった。

交番のすぐ近く、セブンイレブンの前で何やら人だかり。
どうやら、交通事故のようだ。起こったばかりらしい。
野次馬の要素を持たない芳樹は、早くその場を離れようと迂回する。
お陰で帰宅は、8時に10分ほど過ぎてしまった。

それでも電話がかかっていないので安心したのも束の間、
集合ポストに、不在票が入れられていることに気がついた。
時刻は20:03になっている。ついさっきだ。慌てて、そこに電話した。
「20時以降の再配達は、できないきまりなんですよ。」

冷たい応対に首をうなだれ、芳樹は姉に電話を掛けた。
「配達前に電話するよう書いたとよ。電話は、なかとね?
 伝票ば見んしゃい。担当者の名前と電話番号ば、書いとるはずやけん。」
明日はシフトが休みだからいいよ、と答えたが向こう意気の強い姉であった。

「ムサシ運送の赤塚、言うたらあんたかいね?さっき不在配達で電話した、
 板橋芳樹の荷物の送り主たい。伝票に書いてあるの読まんとね?
 ユーザーを舐めとるんね?ほんなごと、せからしかね。
 留守がちやけん、電話するよう書いた、とたい。それを無視するんね?

 もうよかよか。配達せんでよか。一生、あんたは配達せんでよか。
 明日、本社に手紙ば書くけん、もうよかよか。勝手に配達しといて
 不在もなかね。中身は食品たい。腐らしたらよか。今夜は、できんとやろ?
 何ね、配達するんかいね。初めからそう言うたらよかよ。しぇからしかね!」

「申し訳ございません。私の過失です。今からお届けにあがります。」
21時に3分ほど前だったろうか。芳樹の携帯電話が鳴った。
電話を切って5分後、菓子折りと取扱い荷物を下げた同年代のドライバーが
ドアの外に立っている。何度も何度も、頭を下げて。
 







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あとがき

全社員を否定している訳ではありません。寡占市場が質を落としています。
独占企業のそこは、誤配が多かったり生鮮食品を腐らせるなど、頻繁に発生しております。
郵便局のEMSですと郵便物の配達状況が、詳細に分かり安心です。
しかし、この会社のシステムは中間が省略されているため、配達時刻も読めません。
配達前に電話を依頼した場合、ほとんど無視されるのは会社のシステム以外に
どんな言い訳があるのでしょうか。
レベルの低い仕事に、残念に思います。粛清を待つのみです。


(この画像は読者の方から、著作権を譲渡していただきました)


 最後まで、お読みいただきありがとうございました
  




2009年03月18日

木瓜のつぼみ

No.00416
zimukumi21


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木瓜 












ホントに暖かくなったり、寒くなったり。訳、わかんないわ。
こんなに冷えるんだったら昨夜、買っておくんだった。
まだ少しあるんだけど、もう足りるかなって思ってたのよね。
灯油なんて重いんだから、一人じゃ運べないんだし。

お向かいの敦賀さんの息子さんが、いろいろ気に掛けてくれるけど
やっぱり他人だしね。あんな息子さんが居て、敦賀さんは幸せだわね。
今頃になって、子供を作っておけばよかったなって思うわ。
亭主は早く逝ってしまうし、残されたら大変ね。

もうそろそろ、お昼になるわね。ご飯、炊けたかしら。
あら、いやだ。私ったらスイッチを入れるの忘れてるわ。
今から、だとお出かけに間に合わないわね。うっかりしてたわ。
午後一番の予約だし。どうしましょ。

仕方がないわね。お昼は我慢するわ。
気をつけなくちゃ、忘れっぽくなっちゃってるのね。
夕食を早めにいただこうかしら。そうしよう。今度は忘れないようにしなきゃね。
お洋服、お洋服。何を着て行こうかしら。

コートはスプリングコートがいいかしらね。あ、そうか。去年は着なかったんだ。
なんでだったのかな。もう、忘れちゃったわ。
でも、レモンイエローだなんて、いつ頃に買ったやつ?
あれ、思い出せないわ。随分と古いのね。前の主人に買ってもらってたのかしら。

これ着て行こうっと。これに合うスカート、合うスカート、と。
黄色いプリーツスカートは、ちょっと派手ね。もう、おばあちゃんだもんね。
チェックのスカートは、と。あ、そうだ。クリーニングに出したままだったんだ。
もう、暖かくなるって思って出したんだった。取りに行かなくちゃ。

あら、このブラウス。こんなところに仕舞っていたのね。
前の主人と別れて、最初の誕生日にあの人が買ってくれたブラウス。
俺の好みだ、なんて言いながらしっかり、私の好みを選んでくれていたんだから。
でも次のシーズンには、私が来ている姿を見られなかったんだもんね。

大変、もうこんな時間じゃないの。バスに乗り遅れちゃう。
あ、鍵、鍵。あった、あったわ。本当にもう、いやね。年は取りたくないわ。
大丈夫ね。まだバスは来てないみたい。
あら、木瓜がつぼみをつけたわね。楽しみだわ。

ふう、バスも間に合ったし。昼間は座れるわ。
あれ?電気屋さん、お休みなのね。え?今日は火曜日なの?
いやだわ、私ったら。歯医者さんの予約は明日じゃないのよ。
まあ、いいか。お買物もたまにはね。ここの公園も木瓜が、つぼみをつけているじゃない。







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あとがき

瓜のような実を付けることから、木瓜(ぼっけ)と呼び、
ボケの発音になった、という説があります。
たおやかなピンクが、懸命に生きてきた人と重なって見とれてしまうのは
私だけなのかも知れません。
ゆっくり惚けていきたい、と望みます。

(この画像は読者の方から、著作権を譲渡していただきました)



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