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窓の外から、遠くに見えるポプラの葉が悲しい。
この家の前にある街路樹が、こんなに遠かったとは。もうすぐ12月だ。
美佐子の白く長い指が踊る。昔と、ちっとも変わっちゃいない。
そう、指だけは…
1年に一度、11月のある日に俺は美佐子のピアノが聞けた。
お互いの都合で日が決められるが、たいていは第3日曜日である。
愛人を作り家を出たのは、俺が悪い。そう、思い出せばすべて、俺が悪い。
終生の愛を誓ったはずが、美佐子を泣かせたのは俺だった。
条件として、聞くことができる美佐子のピアノ。
俺は子供の頃から、結婚するならピアノが弾ける人、と決めていた。
理由などない。ピアノをいつも聞ける環境に、俺は憧れていた。
貧しさがもたらした憧憬、とは違ったように思う。
がむしゃらに勉強して奨学資金精度を援用、バイトを重ねて通った薬科大学。
俺が落とした参考書、膝を斜めに折り曲げて拾ってくれた指のしなやかさよ。
その白く長い指に、俺は夢中になって彼女をお茶に誘った。
バイトをすっぽかしてまで、誘ってみたものの何を話せばいいか、分からない。
大学から駅までの通りにあった喫茶店。レンガ造りの大きなそこは、
絶えずクラシック音楽が流れていた。ウェイトレスがアメリカンコーヒーを置く。
やっと落ち着いたが、あらためて驚いた。こんなに美人だったのか。
美佐子の指に惚れて、誘った喫茶店。顔もろくろく、見てはいなかった。
綿毛のように細く長めの髪は、緩やかなウェーブをたたえる。
切り取ったような、くっきりとした顎のラインが心に突き刺さる。
横に広がった俺の鼻と、根本的に別物と思われる白く気高い鼻。
薄く知的な唇が時々、白い歯をちらつかせる。
大きくない目は、瞳の輝きが絶えることなく、俺の心を捉えた。
「グレン・グールドね、たぶん。この神経質な指使いったら。」
この曲がベートーヴェンの悲愴であることは分かったが、ピアニストまでは。
俺たちは、ピアノの話を夢中で続ける。俺はベートーヴェンが好きだった。
ホロヴィッツ、アシュケナージ、アルゲリッチ、ポリーニ…
美佐子の知識がとめどなく語らせる。その瞳の輝きに、ますます惹かれていった。
中村紘子の話題になった時、ようやく言及することができた。ショパンの話になり、
美佐子の弾くファンタジー・インプロンプツを、聞かせてもらえる約束をした。
「何、ボーっとしているの?また、昔のことを想いだしていたんでしょ。
ダメよ。私たちの幸せは、もう終わったの。
あなたは、彼女のところに帰りなさいな。また、来年になったらおいでよ。
養育費、必ず振り込んでおいてね。私たちの関係は、それだけなんだから。」
「人気ブログランキング」応援しておくんなましあとがき
「羞恥心より悲壮感のほうが好き…」
心の支えである人たち、その一人が昨夜こぼした言葉。
やっぱり、ネタばれかァ…
でも、こんなに私のことを見てくれていたのですね。嬉しいです。
タイトルは「悲壮感」なのですが、歌詞は「悲愴感」になっていますね。
私は、「悲愴」と言えば、チャイコフスキーの6番を連想しますが
たぶんベートーヴェンの、8番「悲愴」より23番「熱情」のほうが好きだから、なのでしょう。
美佐子さんの弾くファンタジー・インプロンプツが聞けるなら、残りの人生を賭けてもいいかな…
最後まで、お読みいただきありがとうございました


もしかして最後は、ご自分に???(笑)経験ないからなぁ…
正にJ-WALKの世界ですね!感謝!!!