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「どこか行きたいところは、あるかい?」
「イルクーツクへ行きたいわ。」
「相変わらず、お茶目だな。痛みはないかい?」
「今は大丈夫。平気よ、あなたが傍に居てくださるから。」
5年前に大腸癌と診断され、一度は快復したように思えた。
しかし転移した病巣が既に、妻の身体中を蝕んでいた。
私の定年退職後、まもなく妻が痛みを訴えるようになる。
医師と三者で話し合い、自宅で終えたい妻の意思を尊重することに。
お互い28歳で結婚、子供はできなかった。
聡明で美しく従順な妻は、私の誇りでさえあった。
妻のお陰で、定年を無事に迎えることができた、と言えるだろう。
贅沢さえしなければ、老後を生きていけるだけの蓄えを残したのに。
私は単身赴任を2度、経験し浮気も2度、経験がある。
どちらも最後は私が振られてしまったが、妻に感付かれずに済んだ。
しかし、そう思っているのは私だけで、妻は知っていたのかも知れない。
そういう負い目から妻の趣味である、単独旅行を何度も許してきた。
「今、何かして欲しいことはあるかい?」
「カチューシャって曲、一緒に歌える?」
「ああ、知ってるよ。リンゴの花ほころびって歌だろ?」
「あなた、日本語で歌ってくれていいわ。私、ロシア語で歌うから。」
Расцветали яблони и груши, Поплыли туманы над рекой;
(ラスツヴィターリ ヤーブロニイグルーシ パプリリ トゥマニナドレコイ)
Выходила на берег Катюша,На высокий берег на крутой.
(ヴィハジーラ ナベレク カチューシャ ナヴィソーキ ベレクナクルトイ)
「カチューシャってエカテリーナの愛称なの。
ほら、英語でウィリアムをビルって言うでしょ?」
妻は法学部の出で、法律事務所に勤務していた。
妻から今まで、ロシア語に関する話を聞いたことがない。
聞いてみようと思ったが、過去の罪悪感が先に立ち、聞けなかった。
その思い、何度目かの意を決した時、妻は帰らぬ人となる。
文語体では良い人と書き、おっとと読ませた。私は良い夫だったのだろうか。
妻の蔵書を整理しながら、そんなことばかり考えた。
古い料理本の中から、一通の封筒が出てきた。
随分と古い、それはロシア語のスタンプが押され、日付は私の迷っていた頃である。
激しく嫉妬、読まずに焼却すればいいものを。少なからずの猜疑心が、あったはず。
人妻から身を引き、シベリアへ向かった技術者を責める資格など、私にないはずであった。
「人気ブログランキング」応援しておくんなましあとがき
確か結婚式で、誓うんですよ。ええ、ええ。私も有名な某教会で、無分不相応にも。
出席した友人が、涙をためている私に感動したそうです。
記憶にないのでビデオを見てみると、神父様のお話であくびをしている訳ですな。
こんな不真面目な男が、不真面目な人生を送り、不真面目な物を書いているのですよ。
日本は平和ですな。おっと、冷えてきましたよ。早く家に、入らなくっちゃ。
最後まで、お読みいただきありがとうございました


時々読ませていただいてるんですが、
すみません、基本的なことを聞いてしまって・・・。
毎回読みきりなんでしょうか?
美しい文章なんですけど、
気になります・・・。
応援凸!