2008年06月
2008年06月30日
キタノサウルスが、見ていた
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No.00157
大柄なあの人は、阪急電車からここまで歩いてるんだもんね。かなりあるよ。
もしかして、ダイエットしてるのかな。無理したらだめだよ。ほどほどに、ね。
女の人は、みんな楽しそうに会社へ行くもんだね。笑い声が弾んでるもん。
それに比べて男は、くたびれているね。いろいろ、抱えてるのかなァ。
あ、あの人は別だよ。早足で歩くね。いつも、そうだけど。元気だね。うん。
あんな男の人がいると、職場も明るいだろうね。笑いが絶えないだろうな。
あれ、あの人。眼帯付けてるよ。人混みの中じゃ、歩きづらいだろうな。
ほら、ぶつかった。あ〜あ、相手が悪いよ。あんなこと、されてる。痛そう。
やっと静かになったね。ボクは、この静けさが好きなんだ。
ここは、はずれだから、通勤時間帯だけ賑やかだけど。静かで、いいや。
あ、だめだよ。こんなところで煙草、吸っちゃ。補導されるよ。早く。
早く、止めないと。ここは巡回に。ほら、言わんこっちゃない。あ〜あ。
あれ、今日だったっけ?パンフレットも、そんなに運ぶと重いでしょ。
大変だね。ボク、後ろは見えないんだ。でも。音は聞こえるよ。
底に当たる、そう。そのスコンスコンて、小気味いい音。好きだね、ボク。
あ、新聞。もうそんな時間なんだね。あ、そこに空き缶、置かないでよ。
「ごめ。ハァハァ、走って来ちゃった。ハァハァ。かなり、待ったァ?」
「さっき、来たばかりだよ。大丈夫。大丈夫。梅田は始めて?」
「何度か、来てるけど百貨店ばかりだったから。ぐるぐる、探しちゃった。」
「そうだったの。もう、大丈夫?うん。じゃ、まず、お茶でも飲もうか。」
「どっか、雰囲気のいい店、知ってる?私、ブログで知り合った人と、
こうやって会うの、初めて。普通だったら、こっちから誘ったり
しないんだけど。何か、ピンと来ちゃった。ごめんね、驚いた?
行動的だなって、思ってるでしょ。私、誤解されやすいもんなァ。」
よく言うよ、あの女。毎週、ここで待ち合わせしてるくせに。と、言うことは
先週の男にも、ご馳走させただけで終わったね。常套手段だね。
男の人、いつも真面目なカンジだけど、ああいう男が騙されるんだね。
相手の懐具合見て、店を選んでるんだよ。幸せには、なれないタイプだね。
早苗さん、こんばんは!もう、遅いのに、まだやってるんだね。家に帰っても、
誰もいなかったね、そう言えば。子供さんもできなかったし。
頑張り屋だから、ご主人の看病しながら掃除婦も続けてたもんね。
知らなかったよ。3年前まで、会社経営してたなんて。
ありがとう、早苗さん。いいよ、いいよ。そんなに丁寧に拭いてくれなくっても。
どうせ、すぐ汚れるんだ。外じゃないだけ、マシなんだ。
それより早苗さん、血圧は大丈夫かなァ。無理しないでね。それだけが心配なんだ。
ご主人が経営で失敗した、60億円を完済するくらい、頑張り屋なんだし。
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2008年06月29日
結婚相談診療所
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No.00156

初めての診察ですか?では、健康保険証をお持ちですか?なければ運転免許証か、
パスポートでも結構です。はい、免許証ですね?コピーを取らせていただきます。
こちらの、問診票にご記入ください。ええ、正直に書いてください。
はい、結構です。免許証、お返ししておきます。お掛けになってお待ちください。
「鈴木さん、どうです、最近?」「だめ。少しずつ良くなっては、いるんだけど。」
「今日は川口さん、どうしたの?」「そう言えば、昨日も来てないわね、」
「もしかして。」「え、抜け駆け?」「川口さん昨日、赤羽駅で見たわよ。めかして。」
「え、池袋の方に行くつもり?」「そうよ、決まったのよ。」「いいなァ、川口さんは。」
はい、お疲れ様でした。こちらが登録用紙になりますから、裏面の注意事項をよく
読んでサインしてください。印鑑がなければ拇印で構いません。ティッシュどうぞ。
あと、お薬が出てます。消炎剤と抗生物質です。発作が起きた時に服用ください。
青い方がホテリサマスで、白いのがミノホドシラズです。はい、お大事に。
はい、次の方。どうされました?離婚して5年ですか。いい男が、見つからない?
ふんふん。お熱は?結構、高いんですな?具体的な症状がありますか?
夜が寝苦しい、と。他に具体的な、そう、例えば視覚的なものは?イヌの交配を見ても
興奮してしまう、と。水を掛けてしまったんですな。ふんふん。なかなか、重症ですな。
ご自分では肉体的なもの、と思われますか、それとも精神的なもの、と。そうですか。
り・よ・う・ほ・う、と。まァ、そのお答えがほとんどな訳ですが、どちらかと言えば?
やっぱり、肉体的なもの、と。ふんふん。では、私の目をじっと見てください。
はい、ゆっくりゆっくり視線を下げてみてください。もっと、ゆっくり。そうそう。
はい、分かりました。もう、結構です。はい、もう結構ですよ。もう結構ですから
顔を上げてください。もう、いいですよ。はい。そう。そう。顔を上げて。はい。
えっと、好みは、と。丸が多いですなァ。職業は無職でもいいんですか?なるほど。
事業をなさっていて収入は、問題ない訳ですな?遊んでいても?はァ、いいと。
年齢で60から65歳だけ丸が付いてませんが?はァ、中途半端、と。65歳以上は?
そ、の、と、き、は、そ、の、と、き、と。20歳でもいい訳ですか。う〜ん。
あ、健康が条件ですな?おお、そういうことですか。離婚の原因は、あなたから、
不満を告げたけども、解消されなかったんですな。げっそりされたんですか。ほう。
分かりました。後で紹介状を書いておきます。紹介センターに登録しておいてください。
書類は受付でもらってください。あなた次第で、早期治療も可能です。
はい、あなた次第です。V6は無理です。KAT-TUNも諦めてください。それなら
GAT-TUNの種無君は?知らない?赤恥君は?それも知りませんか。難しいですな。
外観重視ですか?それだけ?なるほど、なるほど。みのもんたさんでもいい?ほう。
明石屋さんまさんですか?かなり、高額になりますよ。やめときますか?はい。はい。
八つ当たりするなら、裏の川で投石もありますが。もう、済ませてきたんですな。
どうやら、時間がかかりそうですな。性格から、時間をかけて治療していかないと…
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2008年06月28日
喫茶店のランチタイム
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No.00155

「桶川さん、喫茶店でいいかな?」茂原部長、ここでいいですよ。
「えっと、ヒレカツセットか焼き鮭セットだって。それでもういい?」
私は好き嫌いがないですし、茂原部長のお好きなものでいいですよ。
「あれ、いっぱいかな?」テーブルの女性が、移動を申し出てくれた。
「久しぶりに来てくれたのに、ごめんなさいねェ」年配の店員が、女性客に言う。
30前と思われる女性は、快くカウンターに移ってくれた。茂原と桶川は、
女性に各々会釈、テーブル席につく。「そっちにどうぞ。腰が悪いんだ。」
取引先にソファ側を勧められて、恐縮を伴った着座の桶川だったが。
3人の女性店員は、いずれも若くなく最も若いと思われる40歳くらいの店員が、
2人にオーダーを聞きにきた時、後で座った隣のテーブルから「アイスコーヒー。」
その女性のオーダーが、カウンター奥へ通ると同時に、小さなバッグが飛んだ。
右斜め前の女性が、ソファの上に投げたのだ。店員が、奥のテーブルに呼ばれる。
店員が2人に、やっとオーダーを聞いた頃、隣の女性はコーヒーを半分くらい
飲み終えていた。カウンター奥の女性が携帯電話を片手に、やおら立ち上がる。
別の客たちの頭上、壁の展示絵画を、携帯電話のカメラ機能に収めて回った。
「桶川さん、他の代理店は最近、どうなの?何か変わったことは、あった?」
「お待ちどォさま。ヒレカツセット2つです。」一番、小柄な店員が運んできた。
茂原が割り箸を割り、いきなりカツにかぶりつく。桶川は両手を合わし、静かに端を割る。
桶川が左手で椀を持ち、味噌汁に口を付けたあと、椀を盆に戻した。
「本庄君には裏切られたよ。彼には入社当時から、随分と目を掛けて来たつもりなのに。」
本庄係長のことは、いい部分しか知らないんですよ。当たり障りのない発言では、あった。
しかしながら、桶川の中にある情報は、それ以上のものでもなかった。
気配を感じ、桶川は右斜め前の女性を見た。60歳くらいだろうか、その女性、
あろうことか、そこで化粧を始めた。パタパタとファウンデーションを塗り始める。
呆れた桶川は、目を釘付けにすること暫時。移した視線は、カウンターの店員に合う。
済まなそうにも思える店員の表情、当の本人は気付きもしない。もちろん、手を止める
様子もない。それどころか、次の行動に滞りない。化粧の匂いが、料理の香りを汚す。
わさびをウスターソースで溶いて、バルサミコビネガーを掛けたような空気が漂う。
「許せないよね。業務上横領、と言うより人間性を疑うよ。非常識だね。」
茂原の関心は、目の下にある盆の上に載った物、そして本庄係長の使い込みだった。
非常識ですよね!既に桶川は、その言葉が誰に向けられているのか、自分でも
分からなくなっていた。女性は、次なるプロセスを黙々と、そして忠実に実行する。
女性の化粧を、こんなに長い時間、見ることができたのは生まれて始めての
極めて貴重な経験であった。そして、その経験は不快感を伴う経験であった。
最後の煮豆を、箸でうまくつまんで口に運んだ時に、女性の行為が終わった。
支払いを済ませ、何食わぬ顔をして出て行く。匂いだけ、置いていった。
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2008年06月27日
Midnight window shoppinng
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No.00154

麻由ゥ〜、明後日の日曜、やっと実に会えるの。うん。最近、休日出勤が
多かったみたい。そう、日曜日の11時に伊勢丹のいつものとこ。うん。うん。
それでね、三鷹で見つけた、そうそう、あの店。うん。あそこのブラウス、着て、うん。
それでね、明日…え、ダメなの?じゃ、今から一緒に。うん。ごめん。見るだけ
「まったく、結香は計画性がないんだからァ。こんな時間にって。外から見ても、
どうしよって言うのよ。値段も分からないじゃない。近いから、いいけど。
あ、こんばんは。え?ええ、ちょっと駅まで。はい。お休みなさい…
私って、何やってるのかしら。いくら親友だからって。まァ、いいけどォ。」
麻由ゥ〜、ごめんねェ〜、こんな時間に〜。だって、麻由にしか、言えないも〜ん。
うん、このブラウスなの。大人っぽくていい、と思わない?わかんないの。うん。
え、こっちのワンピー?うん、そりゃスタイルはいいって実は言ってくれるけど。
やっぱり、ブラウスよりワンピーがいいの?だって、男の好みは麻由の方がァ。
「よし、このワンピーで決まり。明日、買いに来いよ。うん。似合うって。
それで、分かってるでしょうね。嫁入り前の麻由サマをこんな時間に、
呼び出しておいて。うん。よしよし。創作料理だな。飲み放題も付けてよ、ね。
前、焼き鳥屋だったとこでしょ?うん。あのオヤジ、カンジ良かったけどな。」
えっとォ、軽いウェーブで。そう、流れるような。ええ。前ですか?少し。はい。
カラーはいいです。このままで。はい。じゃ、お願いします。はい。はい…
切り過ぎたかなァ。ボーイッシュになっちゃった。まァ、いっかァ。
あれ、もうこんな時間。やっぱり、あの服、やめとこォ。高そうだしィ。
「おい、立川ァ。競馬、行こうぜ。高松も一緒だぞ。暇だろ。用意しろよ。」
「矢川先輩、おはよっす。今からっすか?今日は、ちょっ…ちょっと待ってください。」
「Rrrrrrr,rrrrrrr…あれ?」きゃっ、実からだわ。何?何?え?もう、9時じゃない。
「結香、出ねえから、いっかァ。先輩、お待たせっす。行きましょっか。」
「高松が夕方、予定あるそうだからよ、昼過ぎには解散だなっ。よし、行こうぜ。」
だめェ〜。やっぱり、あの服、買っとけば良かったァ。前髪、短く切り過ぎたから、
どの服も絶対、ダメ〜。もう、行きたくない〜。でも、さっきの電話って何?
え?もう10時じゃない。ダメ〜。もう、間に合わな〜い。どうしたらいいの〜?
「はい。え?結香、どうしたの、デートは?何か、あったの?ねえ、ねえ?泣いてるの?
どうしたの?ね、何があったの?バカね。泣いてちゃ分からないでしょ。ねえってば。
まだ、家?服?もう、あるもの着て、今からでも、行きなさいよ。待ってるわよ。」
麻由ゥ〜、3時になっても来ないの。やっぱり、いない。うん分かった。かけてみる。
ぴろろんぱろぴろぷっぴ〜。「ケイタイ、鳴ってる。結香じゃねえか。今頃…
「あ、悪い、悪い。突然、先輩から誘われちゃってさァ、行けなくなっちゃったんだよ。
電話したけど、出なかっただろ?今からじゃ、遅くなるし。俺、明日は早いから。
じゃ、またこ…あれ、もしも〜し。もしも〜し。切れちゃった。まァ、しょうがねえか。」
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2008年06月26日
お岳さん
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No.00153

ごめんください。ごめんくださ〜い。どなたか、いませんかァ。すみませ〜ん。たのもォ。
お留守かしら。さっき、物音がしたような気がしたんだけど。いないのかしら、ねェ。
これだから、田舎ってイヤなのよね。だいたい、主人が突然、田舎生活だ、なんて。
二人とも、横浜なんだから。何も、こんな誰も知らないところへ越して来なくても…
「何をブツブツ、言っておるか。ワシが雪隠におったら、外で何やら、騒がしい。
慌てて出てきたんだ。おまえは誰ぢゃ。見かけん顔じゃが。物取りか。物取りなら、
官憲に突き出してやらねば。何者ぢゃ。名を名乗れ。不審な、おなごめ。
ん?何か、持っておるな。何ぢゃ。包みを開けてみい。」
あ、あ、あ、あやしいものなんかじゃ、ありません。そんな、いきなり。
昨日、越してきた川の横の、山下と言います。挨拶に来たんです。
あやしいものじゃ、ありません。これは、ご挨拶にシュウマイを持って来たんです。
主人と二人で、ここに暮らそうか、と。横浜から来たんです。
「ふん、支那の喰いモンか。まあいい。置いていけ。ん?まだ、何か用か?
用が済んだら、とっとと帰れ。ワシは忙しいんぢゃ。早よ、帰れ。雪隠、雪隠。」
…何なの?あの、おばあさんたら。まったく、失礼しちゃうわ。
せっかく、緋陽軒のシュウマイを買ってきてあげたのに。パックだけど。
あら、あなた。高山さんは、留守だったの?役場で隣保の方って紹介されたんでしょ。
いたの。そう。良かった。そう。カンジのいい人だったのね。奥さんだけ?
それが、変なおばあさんなの。失礼しちゃうわ、まったく。ねえ、セッチンてなあに?
あなたも知らないの?シュウマイ、あげたら支那の食いモンか、だって。
ああ、山下さん、こんにちは。どうですか。落ち着きましたか?ええ、静かでしょ。
ここは、自然も豊かだし。食べ物はあるし。経済的にも潤っているから、のんびりと。
川の魚は、おいしいし。ええ。うるさいのは、あの…また、始まった。
飛んでる、飛行機を見たら、ああやって竹槍を突くんです。何を考えてんだか。
うるせえぞ。お岳ばあさん、騒ぐな。そんなスティックなんぞ、持ちやがって。
「敵機来襲〜!」うわ、あぶねえなァ。刺さったらどうすんだよ。
「うるさいっ。毛唐の言葉を使いやがって。海軍中佐の主人が戻ってきたら、
ただぢゃ、済まぬから、覚悟しておけ。」やめろ、危ねえなァ。
本名は広瀬竹子って、言うの。ほら、いつも竹槍を置いてるだろ。あの、竹だよ。
おやじさんが登山好きだったし、御岳山が見えるだろ。それで勝手に岳子と書くんだ。
みんな知ってるし、逆らうとうるさいだろ。だから、岳子さんって書くんだ。
だいたい、日本中に御岳山って、いくつあるのか、知ってるかい?
何が、海軍中佐だよ。戦時中に広瀬中佐って人情肌の人がいたんだってさ。
自分の名前が広瀬だから、言ってるだけだよ。お岳さんの旦那は、陸軍の二等兵だよ。
前線に行く前に、戦争が終わったんだ。死んだ親父の同級生だから、よく知ってるよ。
旦那がアメリカの女と逃げてから、頭がおかしくなったんだ。
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2008年06月25日
盗人たちの会話
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No.00152

「ポポロの姐御、今夜こそやるんでしょうね。」
「姐御と呼ぶなって、あれほど言ってるだろう。このバカやろう。」
「プニプニは、バカだなァ。いつも言われてるのに。先代が売れて2ヶ月、経つんだぞ。」
「あのヒトのことは、もう言うんじゃないよ。今は、あたいが元締めなんだからね。」
「だって、プププの兄貴がいた頃は俺たち、ひもじい思いなんかしなかったぜ。」
「だから、おまえはバカなんだよ。あのヒトのやり方が、いつまで通用するって
思ってんだい。エリアマネージャーが変わってから、というもの、店長が遅くまで
帰らないからじゃないか。そんなことも分からないのかい?バカだよ、まったく。」
「ホント、プニプニはバカなんだから。頭の中に、何が詰まってんのよ。」
「うるせェ、ピッピ。おまえだって、頭の中身はパンヤじゃねえか。」
「何だって。プニプニのバカと一緒にするんじゃないよ、まったく。」
「何だとォ。おめえ、いつも偉そうに言いやがって。下手に出てりゃ、まったく。」
「だって、プニプニはホントにバカだから、ドジばっかり踏んでるじゃないのよ。」
「おめえこそ、サンリオ大学を出たってホントかどうだか。
サンリュウ中学の間違いじゃねえのか?バニラとマニラ、間違えるし。」
「サンリュウ中学は、プニプニじゃないの。まったく一度、頭の中を見てみたいわよ。」
「うるさいなァ。何、騒いでんだよォ。大人のくせに。眠れないじゃないか。」
「うるせぇ。フニャミーは寝てろ。子供の癖に、大人の話に首、突っ込んで。」
「プニプニは、ピッピに絡み過ぎだよ。ホントは、好きなんじゃねえの?」
「いいから、寝てなさい。プニプニも子供相手に、何よ。バカなんだから、ホントに。」
「言われなくたって寝るよ。うるさいんだから。仕事は、夜中じゃないか。」
「ホントにね。フニャミーは、寝なさいね。その時は、起こしたげるから。」
「だいたい、ピッピがこの店に当たりをつけてから、半年だぜ。まったく。」
「あたしだって、危ない橋を渡りたくないわよ。だから、今日まで、待ったんでしょ。」
「ペテロの兄貴、今夜で間違いないんですかい?スイーツの入れ替えってのは。」
「ああ、間違いない。俺は、この耳でちゃんと聞いたんだ。店長が電話してるのを、な。」
「ほら、みなさいよ。頭の中がパンヤの、くせに。ホントにバカなんだから。」
「うるせぇ。ヒトのこと、いつもいつも、バカにしやがって。俺だって、そのうち…」
「二人とも、いい加減にしろ。レジの集計が終われば、俺たちの話し声も聞こえるぞ。」
「ペテロ兄貴は、いつも冷静だなァ。遠目も利くし、すげえや。」
「プニプニとは、大違いだわ、まったく。フニャミー、起きなさい。もうすぐよ。」
「うるせぇ、ピッピ。ペテロ兄貴が静かにしろって言ってるじゃねえか。」
「し!店長が帰るよ。静かにしな。よし、鍵を閉めた。今だ。挟まれるなよ。
いいかい、ぬかるんじゃないよ。口を大きく開けるんだよ。口の周りに付いたら
次の日には、アリの攻撃が来るんだからね。アリが付いたら、ゴミ箱行きだよ。
シロップには、手を出すんじゃないよ。垂れるからね。狙い目は、アズキだよ。」
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2008年06月24日
クレソンみたいな
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No.00151

麻衣?あたしよ、あたし。そうよ。酔ってるわ。酔ってちゃ、いけない?
いいじゃないの、暇なんでしょ?どうせ、ドラマか何か。え、ホントに?
何、見てたの?地球温暖化ァ?NHK?何、考えてんのよ、まったくゥ。
そんなの観ても、麻衣の心が温暖化する頃には人類滅亡よ。ング。
結局、連絡なんてないんでしょ?そりゃ、そうよ。麻衣って身勝手だもん。
そ。あたしも。ング。あたしも、身勝手なのよ。一緒よ、一緒。ング。
雄介さんて、商社だったでしょ。生活が派手だったもんね。諦めろってんだァ。
クレソン?クレソンて、ステーキの上に載ってるヤツ?それが、どうしたの?
あれの買い付け、やってたの。そう。よく、分かんないけど。ングング。
でも、いつからになるんだっけ。もう、3ヶ月になるの。そう。
外国に行った訳じゃあるまいし。もう、終わりじゃない。無理よ、無理。
男って、そんなものよ。シャボン玉みたいに、どっか行っちゃうのよ。
でも、麻衣のことだから他にもいるんでしょ?ほうら、図星じゃない。
分かるわよォ。何年になるゥ、あたしたち。ング。なくなちゃった。
ああ、こっちの話ィ。そ、もう10本も、飲んじゃったァ。
だいじょぶ、だいじょぶ。まだまだ、冷蔵庫に。冷蔵庫に、と。あれ?
あと、6本かァ。これが、なくなっちゃったら、あたしの人生も終わりね。
ははははは。冗談よォ、冗談。冗談に決まってるじゃない。
死んだりしないわよ。多情多恨の志穂サマだぞォ。そうだね、多情仏心かもね。
ごめん。もう言わないね。うん。棄てられたりしてないよ。うん、だいじょぶ。
それより、麻衣の話ィ。薬膳料理ィ?そんなの連れて行ってもらったのォ?
いっつもごちそうに、なってるでしょ。次々、要領がいいんだから。ング。
あたしたちって、東京しか知らないじゃない?田舎って憧れるよねェ。
だよね。だよね。ング。だよねェ。で、どうするの?その男は。
そっかァ。麻衣は、気位が高過ぎるんじゃない?その男にしといたらいいのに。
うん。九州に行こうって。でも、前から言ってくれてるけど。うん。北九州。
あのヒト、小倉なのよ。歌にもあるじゃない?ホラ、昔の歌で。ムラタヒデオ?
小倉生まれで、限界育ちィ。口も上手いがァ手も早いって。ング。違ったァ?
もうすぐ、結婚式だから。そう、あのヒトのお嬢さん。遠くで見たことあるわ。
父親似ね。美人だったわ。奥さん、ブスだもん。鼻なんか、上向いててさ。ング。
私と10歳しか違わないのにね、お嬢さん。ずっと若く見えた。ングング。
由紀、由紀って、いつもお嬢さんのことばかり心配してるのよ。頭に来ちゃう。
あたし、言ってやったの。そう、思い切って。
あたしはまるで、ステーキの上に載っているクレソンねって。
そしたら、言われちゃったわ。俺は、栄養価値のあるクレソンが好きだって。
また、やられちゃった。あのヒト、本当に口が上手いんだから。ングング。ぷはァ。
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大阪のアンナ・カレーニナ
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No.00150

「母さんが推敲の仕事してくれるから、ホンマ助かるわ。いつも、悪い思うてんねん。
今年は、残業がもっと減りそうやわ。年収でも2年前の2割、下がったもんなァ。
うちの会社も親会社に切られたら、それまでやわ。もうこの年で仕事、言うたかて
何もあらへんしな。あ、もう行くわ。ああ、水戸黄門までに帰ってくるわ。ほな!」
いってらっしゃい。ハンカチ、持った?ええ、取ってくるわ。
はい、ハンカチ。毎日、替えな気が済まへんねやから、忘れたらアカンやないの。
行ってらっしゃい。気を付けてね。博も、もうそろそろじゃない?お弁当、持った?
あれ、祐美はまだ、寝てんの?起こさな、かたずかへん。祐美〜、祐美〜、起きなさァい!
博、頑張れよ。微分なんかでつまづいてて、どないすんねん。いってらっしゃい。
おはよ、お母さん。うん。うん。分かっとるから。もう、子供とちゃうねんし。
お母さんだって、覚えがあんねやろ?お父さんから、聞いてるで。かまへんて。
うん。今日はゼミが昼からやから。何でドイツ語にしてんやろ。使いようがあらへん。
あ、いい。そのままで。温めなくてええよ、お母さんもまだやんね?一緒に食べよ。
フランス語やったらアフリカ、行けるのに。お母さんはロシア文学やってんな?
ほんで、お母さんはドストエフスキー派やったん?トルストイ派やったん?
ソルジェニーツィン?嘘ばっかし。そっか、トルストイ派かァ。うん、淳がねェ。
淳がドストエフスキー派やねんて。うん、そのうち連れてくるわ。今度は本気やから。
あ、お母さん。私がかたずけるから。いい、いい。座ってて。うん、いいから。
ねえ、お母さんが今、書いてるのん、できたら読ませてな?知ってるで。娘やもん。
じゃ、私も行ってくるね。今夜は、ごはん要らへんから。うん、分かってるって。
血は争えない。私たち夫婦が大学で知り合い、文学の話で語り明かした。
今、娘が同じように。前の彼は、親の目から見ても不釣り合いだった。今度はまともかな?
電材卸の会社で総務部長をしている主人は、「日寄った」と言うが仕方がない、と思う。
そんな私は出産で退職した出版社から、今でも推敲の仕事を回してもらっている。
合間に書き始めた「アンナ・カレーニナ」をテーマにした小説。舞台を大阪にした。
主人は知らないはずだけどヴロンスキーは、和則のこと。アンナと違って私は妊娠せず、
まだ生きている。そして、最後は近鉄電車か京阪電車にしようか、悩んでいるところ。
官能的な部分は、娘に読ませたくないけど。書きながら、思い出す。済んだことなのに。
あ、電話や。え?もう、こんな時間やんか。はいはい。今、出ます。今、出ます。
はい、長瀬でございます。ああ、お母さん。どない、腰は?せやったら、ええけど。
来週の日曜?うん、ええよ。守口に12時やね。ええ店、見つけたん?モールの方?
ロータリーの方やね。分かった。ほんで今度は、いくら要るの?分かるがな。娘やで。
この前みたいに、寿司とか無理やで。え、パスタ?うん、返すのはいつでもええよ。
それより、今夜のごはん、何にしよかな。いつも悩んでまうねん。もう用意せな。
「あんなァ、カレーにしいな。1回、作ったら2日は持つやんか。楽でええで。」
この前から、カレーばっかりやねん。カレーは、もう飽きてもうたわ。
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2008年06月22日
銀座かりん
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No.00149

お、目が覚めたな。気分は、どうだ。今日は、いい天気だぞ。
さっきから、すずめが賑やかだよ。今日は暑くなりそうだな。
どした?起きるのか。無理をするなよ。待ってろ。今、起こしてやる。
お、すまん、すまん。ちょっと早かったか。スイッチが、え、と。
このくらいでいいか?大丈夫、今日は休みだ。明日の朝まで、ここにいるよ。
日曜の休みなんて、久しぶりだ。手違いがあったらしい。南浦和のスーパーが、
キャンセルだそうだ。心配ないよ。駐車場の警備だったら、いくつもあるさ。
俺は小柄だけど、体力だけが自慢なのは知ってるだろ。神は二物を与えず、だ。
お、朝食が来たな。取りに行ってくるよ。あ、どうも。ごくろうざんです。
おっと。は、はい。大丈夫です。あ、おはようございます。おはようございます。
は〜い、お待たせ。大宮さんだっけ、前に同じ部屋だった大柄な人。
今、ご主人に会ったよ。どっちが早く退院するか、競争だな。君の方が早いと思うぞ。
慌てなくていいよ。ゆっくり、食べたらいい。そうそう。あ、お茶か?
俺は、サンドイッチを買ってきた。俺も食べよう。昼は食堂で、カレーでも食べるさ。
思い出すなァ。西麻布のあの店、アマンドだっけ?よく、行ったな。
君は、サンドイッチの玉子は茹で玉子じゃなきゃ、いけないって。ははは。
昨日は与野の複合施設だったよ。アミューズメントって言うらしい。
それでなァ、昔の部下が家族で来たんだよ。ダメだな。つい、目をそらしちまった。
恥じることなんて、何もないのにな。一度に何十億と動かしていたのは、昔のことだ。
あの頃は、何も怖くなかったな。同期で部長代理まで上がったのは、俺だけだった。
夜は、君に会うのが楽しみだったよ。店に来るなって言われた時、驚いた。
これからは、昼間に会いたいって言ってくれた時は、飛び上がる思いだったよ。
君があれほど、身持ちが固かったなんて正直、以外だったんだ。
俺が君の家に転がり込んだのは、あの後すぐ…ん?寝ちまったか。寝顔も、綺麗だよ。
「川越さァん、ご気分は…ああ、お休みになられましたか。
じゃ、吉川さん、ちょっとナースセンターまで、いいですか?」
看護婦さん、あ、すみません。看護師さん、川越の容態はどうなんでしょう。
最近、よく眠るようですが。問題があるんでしょうか。
そうですか…ええ、身寄りはいない、と聞いております。両親を早く亡くしています。
ええ、結婚はしなかったようです。子供もいないはずです。私が、妻を亡くしてから、
もう12年、一緒に暮らしていますから。ええ、よく知っています。
そうですか。年内がやっと、ですか。そうですか。分かりました。宜しくお願いします。
目が覚めたか。気分はどうだ?ああ、いい。いい。無理して、しゃべらなくていいよ。
大丈夫、そのうち退院できるさ。「銀座かりん」と言われたほどの、君じゃないか。
随分と高い、競争率だったからな。思い出すよ。毎日、プレゼントの山だったもんな。
俺が定年になったら一緒に、摩周湖へ行く約束だったぞ。もう2年も待ったんだからな。
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2008年06月21日
インドア彼
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No.00148

大輔、母さんはもう行くからね。ちゃんと学校に行くのよ。ガチャ。
あ、里奈ちゃん。いつも、ごめんね。ホントにありがとう。
大輔ェ〜、里奈ちゃんが来たよォ〜!里奈ちゃん、私、仕事に行くけど、ごめんね!
「いってらっしゃい。」
こんな会話、今日で何日目だろう。同じ話をする、大輔のお母さん。そして大輔。
10分経って、大輔が腰を上げなければ私は今日も、一人で登校する。
「大輔、上がるね。」勝手、知ったる他人の家。家の中は全部、知っている。
2階の奥、6帖の部屋が大輔の部屋。今は、まるでディオゲネスの樽だ。
こんこん。「開けるよ。」大輔は返事もしない。パソコンの前で、指だけが生きている。
「大輔、おととい買って来てあげたゲームしてるの?」大輔の指は、速度を緩めない。
「大輔、パパが東京の大学に行かないかって言うの。大輔は、どう思う?」
「行けば?」大輔は口を開いた。「あたし、大輔と離れたくないの。ね、一緒に行こ?」
指先の速度を、全く変えず大輔は生返事をした。「考えとく。」
「とりあえず、今日は学校に行こ?」「里奈だけ、行け。」
「大輔は行かないの?」答えない空気に、キーボードの音だけがカチャカチャ、鳴った。
「分かった。部活、終わったら寄るね。じゃ行くよ。鍵、閉めといてね。」
去年、部活を何にするか決める時、ちょっとだけ悩んだ。中学でテニスしていたけど、
補欠だった。弓道部って興味あったし、どっちにしようか迷った。
説明会の部屋を出る時、ぶつかってきたのは大輔の方。大丈夫ですかって、
ラケットも拾わずに心配してくれた。凄い速さで鳴る心臓の音、聞かれそうだった。
「こっちこそ、ぼんやりしてて。あ、テニス部に入るの?」
「中学で、県大会まで行ったんだよ。君も入るの?」「うん。でも今、迷ってる。」
「入りなよ。一緒にやろう?3組の川崎さんだよね?」「え、何で?」
「入学式のあと、見つけたんだ。ね、一緒にやろうよ。テニスしようよ。」
積極的な大輔と、その時が始まりだった。明るくて、頼りがいがあって、成績もよく。
先月の日曜日、二人で駅前のハンバーガー・ショップ。急に大輔が黙った。視線を追う私。
窓の外、女子大生くらいの女がすがりつく腕は、大輔の父親だった。お父さん子の大輔は、
しばらく、うつむいていたが「ごめん。」と言って帰ってしまう。追えなかった。
それから家で、レトルトカレーとパソコンの生活。大輔は昼間、シャワーとトイレ
以外に部屋を出ていないようだ。高校の近くにある大輔の家に毎朝、寄っていた。
そこから二人で登校するのが日課だった。もう冷やかす者も、いなくなったのに。
これから、どうなるかなんて分からない。でも、大輔と法学部に入りたいの。
部活が終わって、大輔の家に着く。インターホンを押しても出ない。
ドアに触ってみたら鍵は、かかっていない。2階に上がると、明かりも点けずに
パソコンに向かう大輔がいた。「明かりくらい、点けなよ。視力、落ちるから。」
「点けるな!」語調に驚いた瞬間、後ろから抱きすくめられた。「東京、行くな!」
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2008年06月20日
カレー屋カーリー
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No.00147

寂れた峠道、平たくなった土地に、下の方が割れた大きな看板がある。
「食事処ロイヤル」と書かれたそれは、およそ言語の意味を忘れそうな店名だ。
未舗装の駐車場は広く、長距離トラックが10台以上も停車できた。
道路の向かいは一段、下がった水田である。小さな集落が、遠くに見えた。
定休日は日曜で、トラックの通りも少ない。
もっとも、日田街道を通る車の方が多く、この道は静かなままである。
壁に貼られた、手書きのメニューは洋食、和食といろいろ書いてあった。
しかし、ここで選ぶ行程を通過するのは、一見客くらいである。
常連客のほとんどは、「大盛り」と注文する。一見客が振り向いたりするが、
店主は黙って、用意する。常連客のほとんどは、カレーが目当てであった。
そのサマを見て、次に来る機会のあった技術者らしき作業着が、「大盛り!」
店主は愛想も言わず、黙々と皿にライスをよそい、カレーのルーをかける。
大きな皿は何の飾りもなく、客層のせいか大盛りの量も、多いように思われた。
バリエーションなど、およそありそうもない。ありふれたビーフカレーである。
随分と煮込んでいるのか、野菜など跡形もない。
カレーのルーから顔を出した、大き目のビーフが、ごろんと1つ。
どろっとしたルーをスプーンの半分くらいすくって、ゆっくりと口に運ぶ。
頭で何かが、弾けるような音がする。そう確かに、何かが弾けたのだ。
次に客は、手前のルーがかかり始めた部分を、スプーンですくって、口に持っていく。
次は、もう少し早い速度で口に運んだ。その次は、もっと早くなった。
ごほごほ。「お客さん、ゆっくり食べんね。」店員が来て、コップの水を足した。
店内に、どよめきが起こる。どうやら、それぞれが経験者のようだ。
慌てて食べてしまうほど、美味なるカレーが常連客のお目当てなのであった。
店員は全員のコップへ順番に、冷えた水を継ぎ足して回った。
「カーリー、今度の日曜、忙しかね?」「せからしかね!」また、どよめきが。
もう成人式も数年前に過ごしたであろうと思われるが、幼児体型の店員であった。
美形と呼ぶには離れており、色も浅黒い。だが、気が利いて気立てのいい子である。
カレー以上に、彼女を見たさに来る客たちであった。店主の娘らしい。
肩にかかる程度の長さは、くるくると縮れており常連たちが、くるみと呼ばず、
カーリーと呼ぶようになって久しい。たまに「カーリーくるみちゃん」などと呼ぶ客、
「せからしか!カーリーで良かとよ。」と返される。そのたび、どよめくのだ。
どうやら、本人も縮れた髪が嫌いではなさそうである。笑顔が憎めそうもない。
食べ終えて、箱ごと置かれたティッシュで口を拭く、技術者。
味もさることながら店の雰囲気に、また来ようと思わせるに十分であった。
千円札を出したら硬貨が一枚、戻ってきた。値段も聞かず、注文していたのである。
その技術者は翌日、土曜日も遠回りして店に来た。昨日のお釣りを手に。
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2008年06月19日
ぼんカレー
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No.00146

「ぼん、あきまへん。店の方、行ったら旦那はんのお邪魔になりますよってに。」
せやかて、早よ、お父さんに見せたいねん。…おとうさん、見てみ。100点やで。
こら、匠。店の方、来たらアカンて、あれほど言うとるやろ。紀代。何、してんのや。
「すんまへん、旦那はん。堪忍どす。堪忍どすえ。ぼん、紀代と部屋、戻ろ。」
せやかて、初めてのテストやってん。お父さんに、見てもらいたかったんや。
お母さんかて、あれじゃ逃げてまうわ。ぼく、知ってんねやで。みんな。
「ぼんは、偉いなァ。賢いなァ。100点、取ったんやなァ。末が楽しみやわ。
でもな、旦那はんかて、大変なんやで。賢いぼんなら、分かって欲しいんや。」
ぼくな、お母さんのこと、あんまり覚えてへんねん。でも、ぼくやお父さん、
置いて男の人と逃げたんやろ。みんな、知ってんねやからな。全部。
ぼくを捨てた、お母さんなんか、嫌いや。お父さんの方が、好きなんや。
でもな、紀代のことがもっと、好きやねん。紀代は、優しいから大好きや。
「ぼん、おおきにえ。でも、お父さんもお母さんも悪ゥ、言うたらあきまへんえ。
ぼんは、賢いさかいに、もうすぐ分かるよってに。大人には、いろいろと、
事情、言うモンがありますのえ。お母さんも、いろいろおましたんや。」
ほな、紀代も何ぞ。ジジョウ言うモンがあるんか?紀代も、おらんなるんか?
「ぼん、安心しとおくれやす。紀代は、ずっとここに居てますよってに。
せや、明日ァ清水さん、行く時、一緒に行きまひょか?旦那さんに、
箸置、見繕うように言われてますのんや。そないしまひょ。せやせや。」
紀代は、どこにも行ったらあかんえ。ぼくが、許さへんよってにな。
「ほな、ぼん。待っとおくれやす。紀代が店の方、行ってお昼の賄い、もろて来ます。
さあて、今日は何やろなァ。旦那さんのお料理は、京都一どすえ…」
「…お待っとおさんどす。」なんや、芋の炊いたんと魚の煮付けやんか。こんなん、要らん。
紀代、カレー食べたい。温めるだけのん、あるやろ。あれや。あれや。あれ、してくれ。
北野さん、紀代さんて、もう長いんですやろ。何も、よう作りまへんのですやろか?
ああ、岡崎は知らへんのやな。紀代さんは、煮物させたら祇園一なんやで。
ほんまでっか。失礼なこと、言うてしもた。ほな、何でですやろ。
岡崎。もうすぐ、口明けさん、来はるえ。紀代はな、心臓患うとんや。ハモ、見せてみ。
せや、岡崎。分かってきたやないか。ハモは骨切りが命や。梅肉、もう少し甘うしてみ。
あ、しもた。飛び石に水、掛けてへんわ。おい、ちょっと、ここ頼むわ。
そんな大将、水掛けやったら、わてがやりますよってに。
ええ、ええ、先代からの申し渡しや。大将は、気が済まへんのや。すぐ、戻らはるわ。
もう要らん。美味しないわ。「ぼん、あきまへん。食べモン、残したらバチ当たります。」
もう、おなか一杯や。紀代にやる。ぼく、三条のよっちゃんトコ、行ってくるわ。
「ぼん。ぼん、待っとおくれやす。ぼん、ぼ…。」どて。
あ、紀代、紀代。どないしたんや、おい。…おい、誰ぞ、救急車、呼んでくれ。早よ!
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2008年06月18日
呉カレー
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No.00145

「…ほうじゃけど、昨今のインターネット広告に押され気味なんは、都心部の話じゃけえ
地方都市じゃあ、あいもしゃしゃりもなァ。諸君の営業力がモノを言うんじゃけえのォ!」
旅行代理店の営業所での朝礼は、いつも簡素に終わる。本社と違う空気が、心地よかった。
阿賀次長の挨拶は、いつも同じテンションだ。明るく、屈託のない人物像を認めた。
呉の駅前にある営業所は、3ヶ月前に引っ越したばかり。外商担当は、全部で4人。
地元の広島県内出身者ばかりの3人に混じり、事務所の移転と共に配属になった者が一人。
江原幸一は生まれも育ちも、東京の杉並区である。あまり、目立たない存在であった。
可もなく不可もなくと言ったところか。まだ、ここの言葉に慣れていない。
「江原、片山工務店は行ったか?俺が前、担当じゃったから知ってるけど、
毎年、北陸に社員旅行するはずじゃ。税金対策、税金対策。
行ってみたらええ。俺のアトガマだって言えばいいから。今年も行くはずじゃ。」
同期入社の長迫は、入社式以来だ。無理に、標準語を使おうとしているのが、泣かせる。
まだ、既存客のすべてを回り切れていない。阿賀次長は、雰囲気に慣れさせるために
まずはカウンターに座らせた。本社から来た社員の、特性を知ることもできたのである。
予想通り、言葉が分からなかったが、カウンターにいる女子職員が援護してくれた。
まもなく、自分から言葉の壁を笑って侘びる姿が見られ、営業所内は健全な雰囲気だった。
「江原君、そろそろ外商で実力を見せてくれんかのう。助けて欲しいんじゃ。」
助けるも何も、県内では最も業績のいい営業所である。転勤前にチェック済みだ。
しかし、社交辞令を嬉々として受け止める技術を、知らない訳ではなかった。
2週間前から、与えられた営業車で、まず既存客から訪問してみた。
江原は、呉カレーの自動ドアを入っていった。昼食で何度か、ここに来る。
今日は、他の客がいなかった。それもそのはずである。江原は壁に目をやった。
ディズニーのデザインは、およそカレー店に不似合いな時計である。
針が、2時を少し回ったところだった。コップの水が、目の前に置かれる。
にこやかに迎えたのは、小柄な辰川里香であった。「カツカレーでいい?」
あいまいな返事で、江原は外を見る。厨房にオーダーを何やら、伝えている。
「お客さんが、駐車場に入ったのを見つけたけん、閉めんかったんよ。」
何のことか江原には、理解に多少の時間を要した。そっか、昼は2時までか。
「お客さん、東京の人じゃねえ。私も東京に、おったんよ。去年まで。」
伏せた目は、恥ずかしがっている様子では、なかった。何かあったんだな。
東京のどこに住んでいたのか、聞いてみようと思って口を開こうとした時、
「は〜い。」厨房に呼ばれて行った。江原は悪い気がしない、自分に気付いた。
「は〜い、おまちどおさま。」こ、これは?カツカレーに、野菜の揚げたものと
温泉玉子まで載っている。「私の気持ち。他のお客さんには、内緒じゃけん。」
スプーンを手にし、かぶせられた紙の袋を外す前、勇気が江原の口を動かした。
今夜は、ご馳走させてくれないか。一瞬の間があく。笑顔が「いいよ。」と答えた。
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2008年06月17日
「続・脱どん底」ダウンタウンブギウギバンド
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No.00144

「通勤、通学途中の皆様。お騒がせしております。平和を愛するもの、として
ぜひとも申し上げたくて今朝は、溝の口駅前にやって参りました。
我が国は、憲法第9条にて平和が保障されております。
しかし、兵器の製造は残念ながら、今も行われております。
みなさん、いかがでしょう?人類は、武器を捨てませんか?
軍艦や銃を作ってみても、海に沈めてしまえば何にもなりません。
それより、その費用で住宅を作っていただければ、私はあの娘と新所帯。」
ねェねェ、なァにあれ?変じゃない。ちょっと遅刻して聞いてみない?
「原爆、水爆、作ってみても地球が全滅すれば、何にもなりません。
それより、高速道路を作ってくれれば、かわいいあの娘とドライブできます…」
何だ、あれ?白いツナギ、着てサングラスかけて。でも、カッコいいぜ。
エレキギターが邪魔にならないのかしら。重いでしょうに。 でもイカスわね。
私は、だいたい成城に住んでたのよ。大きな御殿に住んでたし、運転手もいたわ。
女中たちや弁護士だって、お抱えだったの。もちろんドクターだって、お抱えだった。
何から何までやってくれるし、骨の髄まで太ったのよ。朝は早くからムクムク起きて、
アレして、コレして、ナニして。私、本当にいい暮らし。それが何やら。いつの間にやら。
あることないこと雑誌に叩かれ、スッパ抜かれ。朝も早よからお電話、ジャカスカ。
もうダメ、ヤメテよ。ホンマにアジャパー。骨の髄まで細ります。
こうなりゃ食うため、何でも売っちゃえ。売っちゃえ、売っちゃえ。売っちゃえ。
ちょっと、オジ様、これ買って。オジ様、オジ様、こっち向いて。おじさん、おじさん…
半年ほど前に、ヨーコという名前の女が働いてなかったか?そうだ、髪の毛の長い女だ。
何、知っているのか。マリって女は、どいつだ。何、今日は休みなのか。
そのマリ、と客の件でもめたんだな?それが、おまえたちの仁義ってやつか。
猫を拾った?山下公園で、か。その猫を飼っていたのか。
猫を連れていなくなったんだな?前借りしていたのか。1か月分、本当だな?
横須賀が好きだって、言ったんだな?なぜだか、言ってたか?そうか。
ハマから流れて来たって言ったのか。間違いないな?本当だな?
ジルバがうまい?そんなことは聞いてねえ。俺か?ヨーコに自転車、貸したままだ。
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2008年06月16日
野菜の買い方指南
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No.00143

「シンイチロー、野菜をたべにゃあ、ダメじゃにゃあきゃあ…」
30年以上も昔、こんなテレビCMがあった。
自分の知らない方言であるため、記憶の記述に多少の誤りがあっても許されたい。
家の前で待ち伏せし、抱きつく女子高生とお叱りのメールは未だ、苦手である。
メールと言えばパソコンのフリーメールに、「調教してください」とタイトルがあったが、
大阪市の動物取扱主任者という資格を取得していることが、なぜ分かったのであろう。
女性の名前で来ていたのだが、ペット飼育は業とする気がないために開かず削除した。
お会いして丁重にお断りした方が、よかったのかも知れない。
さて前述のCMであるが、野菜ジュースのCMだったように思う。
クラスにシンイチロー君がいて、よく口にしていたが農家であるためか、
本人も嫌がることなく、会話の1つとしてあしらうことができたような気がする。
自分は農家でもなく、貧しい育ちのために好き嫌いなど言える余地など、なかった。
テレビで大滝秀治氏や萩本欽一氏などが、野菜嫌いを吹聴する。
彼らの人間性を否定するどころか、偉大なる人々の一人なのだが、野菜は食べた方が
いい、と思う。見たことはないが、ビタミンとか言うものが入っているそうだ。
女子高生に抱きつかれるより、野菜を食べる方が好きな自分であった。変?
先日、走らせる車が民家もまばらな地域を走行した時に、道路の傍らに建物を見つけた。
その建物は、横に駐車場を用意して立ち寄り易くしている。
走行も前後、当分に類似商業施設が目に入らぬためについ、立ち寄ってしまう。
心の休息を求めて立ち寄るつもりが、多少の血圧上昇を伴うとも知らず。
休憩と書かれた別目的の、夜に煌びやかな施設も実際には休憩など、なされないらしい。
そこでは野菜を売っていないようだから、自分の興味の対象から外れるのだが。
さても、野菜を売っている施設に戻るが、中には当然にして野菜が並ぶ。
と、思いきや手芸品などが置いてあったりする。これがまた、よくできているのである。
野菜は美しいものと、そうではないものがある。人間界も同様な分類が行われるが、
今は野菜についてのみ供述したい、と思う。と、いうのは美しいものから売れていく、
人間界と同様の判断基準を、この種の商業施設では忘れた方がいいからである。
このノウハウを発見した自分は、パテント申請して一儲けしてやろう、と考えている。
今回、読者だけに無料で伝えるが決して、口外なさらないことを誓約して欲しい。
そして、その内容は「美しいものは余所者」という事実なのだ。
言っておくが、ここは兵庫県である。だが、美しいものはすべて、他府県産なのだ。
大根なんて抜いたら、すぐに食べなされ。3日も経てば、美味なる訳がなかろう。
比べて容姿、見劣りする野菜は、近所の農家が生産した物である。
もてはやされるようになって久しい、道の駅でも同様だ。兵庫県産を何が悲しくて
旅行先で買わなければいけないのか。生産農家の氏名や、顔写真まで添付された
野菜など、つい安心してしまう。野菜好きは、苦労しますよ、ホント。
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昨日の「かすていら」ではクイズに、ご応募いただき感謝いたします
1番食べた、が正解です…正解者の方は、
1.たけもと農場の新米さん2.虎龍さん3.リラコさん4.ふしぎ男さん
5.NIKI&NORA☆さん6.クーピーさんの6名です
5番目の正解者、『NIKI&NORA☆さん』には「かすていら」を、お送りさせていただきます
2008年06月15日
かすていら
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No.00142

「平戸屋、それで何の用だい?ほう、長崎名物かすていらだな。どれどれ。
おらァ、この音がたまんねえんだ。え、次の積荷改めかい?いつ、やるかってんだな?
まだ、決めちゃあいねェが…今月は、20日にやろうかって思ってるよ。
何?その日は都合が悪ィのかい?かすていらが美味そうだから、今月はやめだァ。」
子供の頃、祖母が見ていたテレビ番組で、長崎奉行をテーマにした時代劇だった。
萬屋錦之介氏の主演で当時の芸名は、中村錦之介だったように記憶する。
ドラマの題名は「長崎犯科帳」であった。子供心に「半か丁なら、そりゃ当たる。」
などと思ったものだ。丁よ半よ、と育った。蝶よ花よ、と育てられた人が羨ましい。
カステラ1番、電話は2番、3時のおやつは文明堂などというCMを相当の方が
ご存知だが、自分がまだ1歳である、1963年のものらしい。
私より若い方でご存知の方が存在することが、不思議である。
もしかしたら、年齢詐称なのかもしれない。免許証を見せてみろ。
オッフェンバックの名曲、「天国と地獄」の曲に合わせてCMは流れたようだ。
地方に住んでいるし、貧しさの中に身を置く幼少期に、テレビジョンなどなかった。
東京オリンピックの1964年に普及したことを耳にするが、
テレビ様がお越しになった雨の日を記憶している。自分は5歳くらいだから1967年。
以降、祖母の玩具となり家事もそこそこ、テレビ様の前で座布団に座る。
自分だけ番茶をいれて、そのお茶うけが「かすていら」
表情も変えず、黙々と「かすていら」を食らう祖母は、たたみにこぼす。
翌朝、アリが来て私が叱られる。長崎奉行が悪いのだ。不条理を知る、社会勉強。
大阪に住む叔母2人が帰省するとき、銀装のカステラをよく買って帰った。
子供心に叔母たちは、いい人と思ったが。気のせいかもしれない。
カステラが、叔母を連れて帰った。祖父は、甘い物を口にしない。甘い言葉も口にせず、
酒ばっかり飲んでいた。貧しいのだから止めたらいい。水を汲んで渡せば、叱られた。
戴き物でしか口にできない「かすていら」は、主食を凌駕するご馳走であった。
もしかしたらポンパドゥール侯爵夫人より、豪奢な身分だったのかも知れない。
そう言えば、よく講釈をたれて「難しいことを言うな」と祖母に叱られた、
保育園児だったように思う。
聞いた話だが甘い物が好きで、酒も飲むし通行人も飲み込む狸がいるらしい。
小耳に挟んだ情報だが、奥歯が割れて治療に通っているようだ。
その人間にお礼の品、とばかり「かすていら」が送られた、という。
日頃から親切な振りをしているが、騙されてはいけない。狸は狸、尻尾が見える。
なぜ、箱だけしか写っていないのか。さて、四択問題。正解率25%、ヒントは文中。
1番、食べた。2番、箱だけもらった。3番、中身は小判。4番、あなたの幻覚。
答えは、コメント欄にお書きください。入稿順で5番目の正解者の方に、粗品進呈。
明日は終日外出のため、個別返答困難です。早朝に発表、締め切りは午前2時。
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2008年06月14日
ちゅい〜ん、がりがり
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No.00141

タイトルを見て、胸がときめいた方は早めに診察を受けたほうが宜しかろう。
そなたは歯科ではなく、精神科の方に行くこと、お間違えなきよう。
だいたい、歯科医の顔なんて見たくもないのである。彼らは、全く持ってヤクザだ。
人の弱みに付け込み、暴力を与えて金まで巻き上げるのだ。全容を暴露しようではないか。
しかも歯科医師会などと言う組織に属し、本来ならば暴対法の適用が妥当である。
捜査四科が放置していることも、癒着としか思えない。れっきとした広域暴力団なのだ。
「兄ちゃん、何ぞ困ったことあったら言うてくれたら、いつでも力になるさかいのォ。」
この言葉に安堵してはいけない。本当の地獄は、トラブル解決の依頼時から始まる。
だいたい、手口が卑怯である。生きていれば、歯が痛むことがあろうし虫歯もできよう。
赴けば、優しいポップ体や丸ゴシック体で看板を挙げている。色使いもパステル調なのだ。
おどろおどろしい行書体で書かれた暴力団事務所の看板の方が、よっぽど親切である。
あまっさえ、動物のイラストなど描いている知能犯も散見する。つい油断してしまうのだ。
彼らの行状は、筆舌に耐えない。今、使命感を覚えて声を荒げたいのだ。
受付で、うら若き女性がにこやかに応対するが、騙されてはいけない。
つい、この前まで不良学生だったりすること、稀ではない。笑顔の裏は恐ろしや。
さりげなく保険証の提示を求められ、つい見せてしまうのだ。
敬称を付けられ呼ばれるが、事件は待合室で起こっているんじゃない。
本当の地獄は、その奥の部屋で始まるのである。ご存じない方のために申し上げておく。
奥の部屋では、固定こそされないものの、身動きなどできようはずもない。
やがて、恐怖のあまり開けた口が当分、閉めることさえできないのだ。
それからが凄まじい。身動きもできず固まる自分に対し、あろうことか執拗な
痛めつけが始まる。時には、麻酔まで打たれるのをご存知か。
「痛かったら、言わんかい、アホンダラァ。このボケ、カス〜。」などと、
言語表現のディテールは記憶が薄れるが、類似する発言を受けているに違いない。
もうだめだ。一巻の終わり。先立つ不幸をお許し…永遠に続くとさえ、思われた。
「今日のところは、これくらいにしといたろやんけ。」と、まだ生きている。
次回の呼び出しを日時指定されるが、履行しない場合の恐怖など、想像に容易だ。
最初に微笑みで騙され保険証を見せたばかりか、問診票に電話番号まで書いている。
もちろん、それだけで済ますような輩ではない。保険証を取り上げられて帰れない。
返す引き換えに金銭の要求がある。時には、一ヶ月の生活費を凌ぐ金額を要求してくる。
刑法第249条の援用を望むが、おそらく上部組織が当局と結託している。
立件できた話を聞いたことがないのだ。かくして、泣き寝入りしてしまうのである。
裏ではレセプト請求と称し、毎月10日にはストックされた血税からも吸い上げる。
その額や凄まじく、自分たちから取り上げた金額の何と、3倍以上なのだ。
莫大な富を濡れ手に粟、と入手する恐るべき集団なのである。
今日は、午後一番に呼び出しである。せんせ、痛くしないでね。じゃ、お願いしま〜す。
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2008年06月13日
13日の金曜日
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No.00140

あっ、こんな時間。ご飯食べてる時間、ないや。あれ、あれ。携帯どこ、どこ?
靴下、靴下。穴、開いてるし。ま、時間ないからいいか。途中で、買おうっと。
かちゃ。とんとんとん…ずるっどんどんどん、どて。「痛ァ、手ェ、すりむいたァ。」
あ、時間ない。時間。あ、今日は、生ゴミの日だった。また、忘れた。でも時間が。
「あ、バス、待って〜。」「待ってくれ〜。」あ、止まってくれた。良かった。良かった。
「す、すみません。」「すみません。」「お、降ります。降ります。」「あ、すみません。」
あれ、あれ、定期券が。「あ、すみません。」「すぐ、すぐ。」「い、いくらですか。」
え〜、携帯電話も、定期券も忘れてるじゃないか。電車も、切符を買わなきゃ。
「おはようございま〜す。」「あ、おはよう。」「おはようございま〜す。」
「おは…え?会議?そうだった。推進キャンペーンの…」「前橋課長、怒ってたって?」
ああ、高崎君。随分、偉くなったね。重役出勤かい?立派、立派。君は、立派だよ。
まあ、ボクはあっさりしてるからね。いつまでも立ってないで。座れば?
じゃ、みんなには申し訳ないけど、やっと、役員さんもお越しだし、最初から。そう。
赤城さん、高崎サマにもう一度、説明して上げてもらえる?高崎サマに。
ありがとね。何度も、すまなかったね。みんな1時間も早く、来てくれたのにね。
さっきの意見、藤岡君。ホントに申し訳ないけど、高崎サマに聞かせてあげて。
それで、高崎君。頼んでおいた人口動向のグラフは人数分、用意してる?
見たところ、手ブラなのは気のせいかな?目の錯覚かな?もうろくしたかな、ボク?
え、できてないの?すごいね〜。立派だね〜。チャレンジャーだね〜。
それって、嫌がらせなの?何か、恨みでもある訳?ボクが、何かしたっけ?
あのね、高崎君。人間と言ったらね。う〜ん、人間、全部がそうじゃないんだけどね。
まァ、その…人は忘れやすいもの、と言うか。そ、そうだね。脳の回路と、言うか。
人間は、必要な物に対して。もちろん、物だけじゃなくて事柄、と言えばいいのか…
ボクがこのキャンペーンにどれだけ、賭けてきたか。分かってるの?そもそも…
「高崎君たら、朝からずっと、何で電話に出ないのよ。私が、終わりにしよって言ったら、
頭下げて、謝ったの日曜日のことよォ。もう、これなんだから。
だいたい、そういうところが飽きちゃったのよ。後輩の癖に、生意気なんだから。
今日が何の日か、忘れてるのかしら。夕方、出なかったら私たち、おしまいね。」
はァ。終わった。終わったァ。疲れたなァ。今日も一日、おしま〜い。
渋川ァ、気分転換に行こうぜ。おい、高崎も行くだろ。いいから、来いよォ。
「え?藤岡先輩、また、行くんですかァ?」いいから、いいから。行こうぜ〜。
は〜い、お疲れ〜!かんぱァい。しかし、前橋課長の話は、長ェなァ。寝てしまうぜ。
はるなで〜す、よろしくゥ。あ〜この、おにいさん、暗い〜い。元気、出してェ。
じゃあ、かんぱァい。あっ、ごめんなさい、ごめんなさい。こぼしちゃった。
みどりちゃ〜ん、おしぼり。早くゥ。ごめんなさ〜い。背広、汚しちゃったァ。
脱いで、脱いで。あっ、ごめんなさァい。破けちゃったね…
はい、お会計28,000円ですぅ。あれ?財布、財布…悪い、高崎ィ。
今日は払っといて。カード、持ってるだろ?ありがとォ、また来てね〜。
「今日は、最低の日だ。13日の金曜日だもんな。13日、13日。あっ。」
高崎は、思い出した。今日は、危機を迎えている彼女、ひとみの誕生日だったのである。
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2008年06月12日
野いちご供養
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No.00139

「母さん、遅くなって申し訳ないです。あ、兄さん。いろいろ、世話をかけたね。」
いいから、早く上がれ。父さんに線香を上げるのが先だ。挨拶は、あとあと。
修三、遠いのにごめんね。疲れているでしょ。あ、そこに置いといて。
ホントに疲れているでしょうに。ハァハァ、言って。おじいさんも喜んでるわ。
母さんはホント、修三に甘いんだから。修三、話があるから後でいらっしゃい。
「あ、姉さん。いろいろ任せっきりで、すみません。」
修三、いいから。早く、お父さんに挨拶しろ。
「はい、兄さん。お父さんに挨拶したら、そっちの部屋に行くよ。」
「お父さん。ごめんよ。弱っていたなんて、ちっとも知らなかったんだ。
9月から、本社に戻れることになったんだ。一緒に住もうと思ってたのに。
純子も賛成してくれたんだ。やっと、日本に戻れるっていうのに。
親不孝だね。シュトゥットガルトなんか、行ったりしたもんだから…」
修三、おじいさんにちゃんと挨拶できた?喜んでいるわよ、きっと。
「ああ、母さん。遅くなってホントにごめんなさい。姉さんも、兄さんも。」
さあさ、母さんもこっちに来てくれ。修三、一人か?
いいから、4人で話せばいいじゃない。その方がいいわよ。
私から言うわ。父さんの財産なんだけど、この土地家屋以外に株式や預貯金の
相続をどうするか、決めなくっちゃね。お互い、いつ会えるか分からないんだから。
「姉さん、何も母さんの前でそんな話を今、しなくてもいいじゃないか。」
だめだ、修三。おまえは今日、戻ってきたばかりだけど姉さんも俺も今日、帰るから。
母さんは、どう思ってるの。遺言書なんてないんでしょ?私、聞いてないわよ。
それより、母さんはこれから、どうするつもりなんだ?一人で暮らすつもりか?
実は、相談なんだが、この家を売って俺たちと暮らさないか。
今は、まだ考えられないわ。ごめんなさいね。あなたたちにまで。また、連絡するわ。
とにかく、早めに決めてちょうだい。じゃ、電話するわ。火の始末、気を付けるのよ。
母さん、俺も失礼するよ。修三、しばらくいいんだろう?母さんのこと、頼んだぞ。
「母さん、おはよう。よく、眠れました?よかったら、散歩に行きませんか?
最期の日に母さんと父さんが歩いた道を、ボクも散歩してみたいんだ。」
おじいさん、ホントはこの坂もつらかったんじゃないかしら。
あ、田辺さんのご主人だわ。あの日も、ウォーキングしてらっしゃったの。
おはようございます。ええ、お陰さまで何とか。これ、末っ子なんです…
あの日の朝、こっちへ曲がったのよ。そう、変わってないでしょ。ここよ、ここ。
ほら見て。花だったのが、実になってる。まだ一週間しか、経ってないのにね。
野いちごの花を見て「ばあさんみたいで、いいじゃないか。」って言ってくれたの。
やっと、意味が分かったわ。冴えないのね。実がなったら、供えるつもりだったのよ。
「でも、かあさん。アリが就いてるね。みんなに、好かれてるみたいじゃないですか。」
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2008年06月11日
洗い流したい
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No.00138

入梅すれば快晴続き、というおかしな現象の年もあったが、改心したのかそれとも
石原良純氏が魔法を使っているのか知らないが、今年の梅雨時は本来の梅雨らしい。
そんなことが嬉しい年齢になったが、箸が転んでも笑ってしまう年頃、とは違う。
前述の石原良純氏は同じ、1962年生まれだがこの年代で、もし箸の転がる様を見て
笑っていれば、通報したほうが得策である、と思う今日この頃、いかがお過ごし?
何を言い出すか、と思われるだろうが今日は、洗濯をしたのである。
家族が多い主婦に言わせれば、「私なんか日に何度も洗濯機を回すのよ」と。
たぶん、力持ちなんだろう。自分は金と力が「なかりけり」の類なのである。
どんな色の男なのかは、色鉛筆で塗ってね。「おとうさんの絵を描いて応募しよう」
みたいなノリでいかがだろうか。だから、今日は洗濯したんだってば。
以前、PTAの仲間たちが集った時に、家事分担の会話になった。何もしてくれない、と
嘆く母に対し、父が「いつも、俺が洗濯してるだろ。」と言うものだから、
「洗濯は俺じゃなくて、洗濯機がするんやろ?無茶、言うたら往生しまっせ〜。」などと
からかった記憶がある。ごめんね!年上をからかっては、いけない。そのバチが当たったのか、よく若い女の子にからかわれてしまう。「好きよ!」だなんて、騙されないぞ。
だから、洗濯機で洗濯したんだってば。天気が良かったのである。日頃の行いは別。
独居中年は週1くらいのペースで、十分である。お、そこの御仁。察しがよろしい。
そう、下着もタオルも7枚以上、所有しておる。衣裳持ち、だなんてよしとくれ。
頻繁に洗濯しても、水と電気と洗剤と時間の無駄だよね。そうは思わない?
最近、洗剤が減ってきたから買わなきゃいけない。今まで、もらってたのにね。
だから、いつになったら洗濯機を回すの?実は、もう洗ったんだよね。
洗濯するのは気持ちがいい。もっと気持ちがいいことも、この年になると
知っているけど、今日は言わない。よい子は真似しないでね。
昔は洗濯板で洗ってたし、筝曲に「五段砧」と言うのがあるけど、砧で伸ばしたり。
「砧」って世阿弥の能にもあるし、世田谷区の地名にもある。
だから、もう干したんだってば。洗濯物って、洗濯機に放り込んだりするでしょ。
世間の中年オヤジなんか、中には一緒に、洗ってもらえない人もいるらしい。
会社で上司に叱られ、部下に蔑まれ、顧客になじられ、家では別に洗われて。
割り箸でつまむって信じられないのだが。でも色柄物は、分別しなきゃ。
独居中年は分別もしない。缶、瓶は第2水曜だって。あ、今日だ。急げや急げ。
ふう、危ないとこだった。回収車が来てた。ほんでもって、どこまで話したっけ。
そうそう、洗濯物を干したわけ。カゴに小さいタオルを敷いて、上にバスタオル。
反対側に、シャツ類を数えながら入れる。数の分だけハンガーを出してくるわけ。
バスタオルを手前に、あとで小さいタオルを向こう側。ハンガーにシャツ。残りは
タコ足にピンチ。で、何を洗い流したいかって?人生、全部に決まってるでしょ。
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