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No.00121

駐車場に停めて4人は、階段へ向かった。
「おい、早くしろよ。まったくおまえは、何をやっても愚図なんだから。」
夫は言わなくてもいい事を口にするが、単なる口癖であることを知っている。
10年も経てば妻も、慣れてくるものだ。男の子の手を引いて、後に続く。
上の娘は、もう小学生であり父親の手を握ってサッサと歩いた。
店内は満席のようである。振り向き何か、言おうとする前に妻は頷いた。
どうせ、よそも混雑している。夫は同意を得て、そこに「音野」と書き、喫煙に丸。
「ねえ、あなた。音野って誰の名前?」「いいから、いいから。」
「みんな、考えることは一緒かァ。」「回転寿司よりマシよ。週末は、1時間待ちですって。」
「あたし、パスタにスープも付けていいでしょ?おとうさん。」「ボク、ハンバーグ。」
口々にバラバラな発言だが、それなりに浮かれていたことは間違いない。
「オトノサマ〜!オトノサマ、4名様ァ。」15分くらいで回ってきた順番であった。
窓際の、奥から3番目のテーブルに案内された4人。娘が真っ先に窓際を陣取る。
「お父さん、こっち、こっち。」手を引いて自分の横に、座らせご満悦である。
妻は、通路側で夫と向かい合う。息子の上着を脱がせて、横にたたんだ。
煙草を取り出し火を点けて、ゆっくりと煙を吐き出した。「何でも頼んでいいぞ。」
姉と弟は、寛大な父と認識して輝かせた眼でメニューを見ている。
「サーモンのクリームソースパスタとスープは…え〜と、季節のサラダも頼んでいい?」
「ボクねェ、この玉子がのってるハンバーグと、オムライスも食べたい。」
「いいけど、そんなに食べられるのか?俺は、この海老フライセットと、それと…」
ご注文を繰り返します…以上で、よろしいですか?「ボク、オレンジジュースも。」
かしこまりました。少々お待ちくださいませ。バイトらしき彼女は、女子大生か。
主人の好みのタイプ、オーダーを執る唇に、目が釘付けだった夫を、妻は見逃さない。
優しそうに思えたけど何度、夫の浮気に泣かされたか。惰性に近い10年であった。
「おまえは何にも注文しないのか?」これだけ頼んで、食べきれる子供たちではない。
妻は生返事で回避し、決して場を乱さなかった。「あのね、今日ね、幼稚園でね。」
子供たちは楽しそうだし、夫も最近は真っ直ぐに帰って来ている。
こんなところかな、と目の前の幸せに自分を妥協させてみる。窓の外、看板が明るい。
「お父さん、煙草臭ァい。」「そ、そうか。もうすぐメシも来るしな。」慌てて消した煙草。
何となく嬉しかった。気遣いなど、似合わないと思っていたのである。
私が我慢すれば、幸せなのよ…そんなことを考えているうちに、料理が運ばれる。
夫は、息子のハンバーグを食べやすく切ってやった。はしゃぐ息子。娘も笑みが絶えない。
食後の煙草に、手を付けようとしない夫を不審に思った。やおら、上着をまさぐっている。
「早いけど、明日で10年だからな。」ぶっきらぼうに渡す、小さな包み。「開けてみろよ。」
ネックレスにはダイヤが10個、輝いていた。「これからも、よろしく。」目に涙が浮かぶ。
この時まだ、先月の過ちが既に生命を宿していたことに、気付かない妻であった。
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でも、ちゃんとオトノサマと言ってくれるかな〜
たまにはオンノサマと言う人もいるかもしれないですね。
そうやって色々考えると待ち時間も楽しいかもしれないですね。