営業部第六課(自然)
2008年07月29日
流行らない弁護士事務所は暑かった
No.00186

「所長ォ、このエアコン、いつ直してくれるんですかァ?」
『落合さん、もう少し待ってくれる?月末には、示談の報酬が入るんだ。』
「賃料も2ヶ月、溜めてるんでしょ?私の給与は、遅れたら辞めますからねっ!」
『そのことなんだが…』「ダメですっ!私だって生活がかかってるんだからァ。」
『やっぱり国選ばかりじゃ、やっていけないよなァ…』「当然ですっ!」
『しかし、暑いなァ。』「こんな日に、エアコンなしなんて信じられなァい。」
「私、家裁に行ってきますね。こんな事務所より、外の方がマシですから。」
『悪いね。頼むよ。帰りは夕方になるよね。ゆっくりしてきてくれたらいいよ。』
しかし、暑いな。どうせ、依頼も来ないだろうし。俺は、ネクタイを外し
シャツのボタンを2つ、外した。肘掛け椅子にもたれて、目を閉じる。
いろんなことを回想していたが、時系列に大きな揺らぎがあった。
窓の外には、中途半端な入道雲。うだるような暑さ、とはこのことか。
俺の回想は、大学のゼミにいた。積極的に質問を繰り返す俺は、教授のお気に入り。
付箋だらけの六法全書を、離さない。特に民事訴訟法には力を入れた、暑い夏。
いつのまにか俺は、法廷にいた。俺の熱弁は、検事を舌打ちさせる。
予定通りの判決、すべて思い通りだった。裁判所の外、日差しが眩しかった。
裁判所から駅への暑い道を、ハンカチを湿らせながら歩く。
「すみません。」振り向くとモノトーンのワンピース、大きな帽子の女性だった。
駅への道を聞かれて、俺も駅へ歩いている、と答えた。たわいもない世間話、
相槌がないことに気付いて振り向けば、そこには誰もいなかった。
「すみません。すみませ〜ん。」いかん、つい眠ってしまった。
来客に、椅子をすすめて机に戻り、渡す名刺を取ろう、と引き出しを開けた。
名刺を手にして振り向いた時、訪れたはずの女性が、そこにはいない。
大きな帽子だったが、不思議と顔が思い出せない。モノトーンの服だったような。
暑い夏、俺は医療ミスの事案を引き受けていた。夫を失った、その女性は
すがるように俺を頼る。俺の正義感は若く、その指向性は周りが見えていなかった。
俺は信じた道を、ひたすら突き進む。流れを汗を拭うことさえ忘れて。
勝訴を当然と受け止めた時、彼女の笑顔は依頼者のものでは、なかった。
釈然とせず独自検証をしたことが、間違った行為だったようだ。
周到な偽証罪を今さら追って何になる。恨むのは自身の未熟さ、のみであろう。
真相を知った暑い夏の夜、俺は居酒屋で浴びるほど、ビールをあおった。
いつまでも熱い体を、女将が揺り起こす。「所長ォ、もう看板ですよォ。」
「所長ォ〜、所長ォ。所長ったらァ。ポストに地裁から書類、届いていますよ。
これ、待ってたんでしょ?起こしても起きないんだから。
もォ、ヨダレ垂らして、最低ェ。これで中央大学法学部の主席だなんて
信じられな〜い。5時過ぎたから私、帰りますよォ。お先にィ。」
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あとがき
昔から暑いのが苦手です。同時にいろんなことを考えられる、営業職の体質は、
集中力がありません。
元からない集中力も、この暑さで溶けていくのです。
最後まで、お読みいただきありがとうございました

「所長ォ、このエアコン、いつ直してくれるんですかァ?」
『落合さん、もう少し待ってくれる?月末には、示談の報酬が入るんだ。』
「賃料も2ヶ月、溜めてるんでしょ?私の給与は、遅れたら辞めますからねっ!」
『そのことなんだが…』「ダメですっ!私だって生活がかかってるんだからァ。」
『やっぱり国選ばかりじゃ、やっていけないよなァ…』「当然ですっ!」
『しかし、暑いなァ。』「こんな日に、エアコンなしなんて信じられなァい。」
「私、家裁に行ってきますね。こんな事務所より、外の方がマシですから。」
『悪いね。頼むよ。帰りは夕方になるよね。ゆっくりしてきてくれたらいいよ。』
しかし、暑いな。どうせ、依頼も来ないだろうし。俺は、ネクタイを外し
シャツのボタンを2つ、外した。肘掛け椅子にもたれて、目を閉じる。
いろんなことを回想していたが、時系列に大きな揺らぎがあった。
窓の外には、中途半端な入道雲。うだるような暑さ、とはこのことか。
俺の回想は、大学のゼミにいた。積極的に質問を繰り返す俺は、教授のお気に入り。
付箋だらけの六法全書を、離さない。特に民事訴訟法には力を入れた、暑い夏。
いつのまにか俺は、法廷にいた。俺の熱弁は、検事を舌打ちさせる。
予定通りの判決、すべて思い通りだった。裁判所の外、日差しが眩しかった。
裁判所から駅への暑い道を、ハンカチを湿らせながら歩く。
「すみません。」振り向くとモノトーンのワンピース、大きな帽子の女性だった。
駅への道を聞かれて、俺も駅へ歩いている、と答えた。たわいもない世間話、
相槌がないことに気付いて振り向けば、そこには誰もいなかった。
「すみません。すみませ〜ん。」いかん、つい眠ってしまった。
来客に、椅子をすすめて机に戻り、渡す名刺を取ろう、と引き出しを開けた。
名刺を手にして振り向いた時、訪れたはずの女性が、そこにはいない。
大きな帽子だったが、不思議と顔が思い出せない。モノトーンの服だったような。
暑い夏、俺は医療ミスの事案を引き受けていた。夫を失った、その女性は
すがるように俺を頼る。俺の正義感は若く、その指向性は周りが見えていなかった。
俺は信じた道を、ひたすら突き進む。流れを汗を拭うことさえ忘れて。
勝訴を当然と受け止めた時、彼女の笑顔は依頼者のものでは、なかった。
釈然とせず独自検証をしたことが、間違った行為だったようだ。
周到な偽証罪を今さら追って何になる。恨むのは自身の未熟さ、のみであろう。
真相を知った暑い夏の夜、俺は居酒屋で浴びるほど、ビールをあおった。
いつまでも熱い体を、女将が揺り起こす。「所長ォ、もう看板ですよォ。」
「所長ォ〜、所長ォ。所長ったらァ。ポストに地裁から書類、届いていますよ。
これ、待ってたんでしょ?起こしても起きないんだから。
もォ、ヨダレ垂らして、最低ェ。これで中央大学法学部の主席だなんて
信じられな〜い。5時過ぎたから私、帰りますよォ。お先にィ。」
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昔から暑いのが苦手です。同時にいろんなことを考えられる、営業職の体質は、
集中力がありません。
元からない集中力も、この暑さで溶けていくのです。
最後まで、お読みいただきありがとうございました
2008年07月28日
若き君へ
No.00185

なんだい、あんた。くどくんなら若い子にしときな。あたしに鳴かなくていいよ。
おや、あんた。足を痛めているね。飛べるのかい?そうかい、仕方がないね。
これも運命とやら、だね。蜘蛛の巣にかかるヤツ、鳥に喰われるヤツ。
人間に捕まるよりマシってもんさ。まっとうできたら幸せだよ。
あんたは、どこの土だい?さァ、知らないね。遠いのかい?そうかい。
昨日、羽化したばかりかい。あんたは若く見えたよ。やっぱりだね。
あたしのことなんて、どうでもいいんだよ。今日が峠だろ、たぶん。
聞きたいなら、聞かせてあげるよ。終わったら、飛んでみな。大丈夫だよ。
生まれかい?もっと東の方だよ。そうさ、あたしたちは幼虫馴染みだったんだ。
土の中で知り合って、よく遊んだものさ。お互い、この人じゃなきゃってね。
あんなことが起こらなきゃ、ずっと一緒に暮らしていたさ。
そう、あんなことが起きなきゃね。今でも、はっきり覚えているよ。
ガラの悪い幼虫が来てさ、あたしにチョッカイ出して来たんだ。
あたしゃ、逃げたよ。身体を縮めたり伸ばしたりね。
あの人が、助けてくれたんだ。あん時は、嬉しかったよ。
「俺の女に何をする。」ってね。俺の女って言葉が嬉しいじゃないか。
でも元々、喧嘩慣れしていないあの人は、加減が分からなかったんだ。
相手は頭から血を流して、倒れちまったんだ。あの人はあたしの手を引っぱり、
「逃げよう。」って言った。路地裏に、倒れたその男を残してね。
それがいけなかった。いくらワルでも、人間だよ。その男は死んじまったんだ。
後で知ったんだけど、札付きだったらしい。その男がいなくなって救われた人も
大勢いたらしいけど関係ないさ、ね。人の命には、変わりないよ。
情状酌量を認められたけど、放置して逃げたことは、許されることじゃない。
あたしたちも分かってたんだけど。夢中だったんだ。そう、逃げるのにね。
結局、言えるのは逃げちゃいけないってことさ。あんたも足を痛めても
死ぬ気で飛んでごらん。大丈夫、飛べるさ。飛べないって思い込んでるだけだよ。
え、その後かい?あの人は無事、懲役を終えて帰って来てくれたよ。
でも、もう末期だったんだ。一緒に飛べた3日間が、夢のようだったね。
そりゃ、そうさ。あんたは、まだ相方を見付けてないのかい?
たいていは羽化して見付けるからね。あたしらみたいな夫婦は、珍しいよ。
頑張って飛んでみな。相方なんて、すぐ見付かるさ。あんたは、いい声じゃないか。
一緒に飛んでる時が一番、幸せなんだよ。でも、木より高く飛んじゃいけないよ。
あたしゃ、ここで消えるのかも知れないね。もう飛ぶ力は、今朝からないんだよ。
今じゃ、ここにしがみつくのがやっとさ。でも後悔はしてないよ。
生まれ変わったら、またセミになりたいね。セミになって、またあの人と
巡り合いたいよ。ああ、そろそろだね。目が見えなくなってきたよ。さあ、行きな。
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あとがき
早朝の散歩時、階段にしがみつくニイニイゼミを見付けました。
つい、こんなストーリーを思いついてしまった、ただそれだけのことです。
最後まで、お読みいただきありがとうございました

なんだい、あんた。くどくんなら若い子にしときな。あたしに鳴かなくていいよ。
おや、あんた。足を痛めているね。飛べるのかい?そうかい、仕方がないね。
これも運命とやら、だね。蜘蛛の巣にかかるヤツ、鳥に喰われるヤツ。
人間に捕まるよりマシってもんさ。まっとうできたら幸せだよ。
あんたは、どこの土だい?さァ、知らないね。遠いのかい?そうかい。
昨日、羽化したばかりかい。あんたは若く見えたよ。やっぱりだね。
あたしのことなんて、どうでもいいんだよ。今日が峠だろ、たぶん。
聞きたいなら、聞かせてあげるよ。終わったら、飛んでみな。大丈夫だよ。
生まれかい?もっと東の方だよ。そうさ、あたしたちは幼虫馴染みだったんだ。
土の中で知り合って、よく遊んだものさ。お互い、この人じゃなきゃってね。
あんなことが起こらなきゃ、ずっと一緒に暮らしていたさ。
そう、あんなことが起きなきゃね。今でも、はっきり覚えているよ。
ガラの悪い幼虫が来てさ、あたしにチョッカイ出して来たんだ。
あたしゃ、逃げたよ。身体を縮めたり伸ばしたりね。
あの人が、助けてくれたんだ。あん時は、嬉しかったよ。
「俺の女に何をする。」ってね。俺の女って言葉が嬉しいじゃないか。
でも元々、喧嘩慣れしていないあの人は、加減が分からなかったんだ。
相手は頭から血を流して、倒れちまったんだ。あの人はあたしの手を引っぱり、
「逃げよう。」って言った。路地裏に、倒れたその男を残してね。
それがいけなかった。いくらワルでも、人間だよ。その男は死んじまったんだ。
後で知ったんだけど、札付きだったらしい。その男がいなくなって救われた人も
大勢いたらしいけど関係ないさ、ね。人の命には、変わりないよ。
情状酌量を認められたけど、放置して逃げたことは、許されることじゃない。
あたしたちも分かってたんだけど。夢中だったんだ。そう、逃げるのにね。
結局、言えるのは逃げちゃいけないってことさ。あんたも足を痛めても
死ぬ気で飛んでごらん。大丈夫、飛べるさ。飛べないって思い込んでるだけだよ。
え、その後かい?あの人は無事、懲役を終えて帰って来てくれたよ。
でも、もう末期だったんだ。一緒に飛べた3日間が、夢のようだったね。
そりゃ、そうさ。あんたは、まだ相方を見付けてないのかい?
たいていは羽化して見付けるからね。あたしらみたいな夫婦は、珍しいよ。
頑張って飛んでみな。相方なんて、すぐ見付かるさ。あんたは、いい声じゃないか。
一緒に飛んでる時が一番、幸せなんだよ。でも、木より高く飛んじゃいけないよ。
あたしゃ、ここで消えるのかも知れないね。もう飛ぶ力は、今朝からないんだよ。
今じゃ、ここにしがみつくのがやっとさ。でも後悔はしてないよ。
生まれ変わったら、またセミになりたいね。セミになって、またあの人と
巡り合いたいよ。ああ、そろそろだね。目が見えなくなってきたよ。さあ、行きな。
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早朝の散歩時、階段にしがみつくニイニイゼミを見付けました。
つい、こんなストーリーを思いついてしまった、ただそれだけのことです。
最後まで、お読みいただきありがとうございました
2008年07月21日
紫陽花のような君
No.00178

今夜は、君も飲まないか?洗い物が終わったら、こっちに座ろうよ。
「もう少しで終わるから。何か肴、作ろうか?」
いや、この漬物で十分だよ。君の漬物は、おふくろ以上だな。
「お義母さんは、何でもできる方だったわね。随分、教えていただいたわ。」
「はい、はい。お待たせ。これも、追加ね。どうぞ、召し上がれ。」
お、インゲンの胡麻味噌和えじゃないか。君のこれは、絶品だからな。
「あ、そうそう。ちょっと待っててね。」
おいおい、のんびりしてればいいじゃないか。座ってろよ。
「あなた、斜め向いの鈴木さん、聞いてる?入院されたのよ。胃潰瘍ですって。」
え、鈴木さんのご主人が?そう言えば、最近はお見かけしないなァ。
よく散歩途中で、会ってたんだ。柴犬を連れて。名前、なんて言ったっけ?
「ああ、ポチモね。ご主人に似て賢い犬だわね。はい、どうぞ。生こんにゃくよ。」
ワサビを溶いた醤油で食べると、生こんにゃくっていいよな。ありがと。
君も飲めよ。あ、グラスは俺が取ってくる。君は、もう座ってろよ。
「鈴木さんのご主人、あなたと同じ気ィ遣いだから、胃潰瘍になったのね。
あなたも、気を付けてよ。もう、若くないんだからね。あら、漬物おいし。」
鈴木さん、今は自宅で仕事してるけど会社経営してたんだろ?
「そうよ。建設会社の社長サンだったの。奥さん、言ってたわ。
経営不振なら諦め、もつくけど売り掛け金の回収不能が重なったんですって。
連鎖倒産て、気の毒よね。それでも従業員のために駈けずり回ってたから。」
ああ、聞いてるよ。ま、ぐっといけよ。それで解雇した従業員の再就職先、
頭を下げて回って全員、決めてきたって言うんだから大したものじゃないか。
そっから、立ち直ったのも凄いよな。同じように、不可抗力で会社を閉めて
うつ病になったヤツも知ってるぞ。今は、随筆とか書いているけど。
「人の人生って悲喜交々ね。井上陽水だっけ?人生が二度あればって歌。」
ああ、そんなのもあったな。次の人生も君が居てくれたらいいな。
「飲み過ぎてない?若い子みたいなこと、言ったりして。変なの。
よし、明日は休みだし。今夜は、森伊蔵も開けよっか。付き合うし。」
俺たち結局、子供には恵まれなかったけど、それなりに幸せだったなァ。
「はい、どうぞ。だった、って過去形じゃない?私はhave been + ing よ!」
あ、ありがと。なんだい、そのハブビンプラスアイエンジーって?うまいな、これ。
「現在完了進行形よ。あなたってスペイン語や韓国語は分かるのに。おっかしい。」
庭の紫陽花が、君の手入れのお陰で綺麗だよ。こうやって雪見障子越しに見れば
夜でも華やかだ。紫陽花って、いいよな。長い間、綺麗なままでいてくれて。
薄紅色もいいが、こうやって薄紫の花を見てると、ほろ酔い加減の君のようだ。
ほん…とう…に…「あら、あら、風邪、引くわよ。そんなとこで寝ちゃ。」
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今夜は、君も飲まないか?洗い物が終わったら、こっちに座ろうよ。
「もう少しで終わるから。何か肴、作ろうか?」
いや、この漬物で十分だよ。君の漬物は、おふくろ以上だな。
「お義母さんは、何でもできる方だったわね。随分、教えていただいたわ。」
「はい、はい。お待たせ。これも、追加ね。どうぞ、召し上がれ。」
お、インゲンの胡麻味噌和えじゃないか。君のこれは、絶品だからな。
「あ、そうそう。ちょっと待っててね。」
おいおい、のんびりしてればいいじゃないか。座ってろよ。
「あなた、斜め向いの鈴木さん、聞いてる?入院されたのよ。胃潰瘍ですって。」
え、鈴木さんのご主人が?そう言えば、最近はお見かけしないなァ。
よく散歩途中で、会ってたんだ。柴犬を連れて。名前、なんて言ったっけ?
「ああ、ポチモね。ご主人に似て賢い犬だわね。はい、どうぞ。生こんにゃくよ。」
ワサビを溶いた醤油で食べると、生こんにゃくっていいよな。ありがと。
君も飲めよ。あ、グラスは俺が取ってくる。君は、もう座ってろよ。
「鈴木さんのご主人、あなたと同じ気ィ遣いだから、胃潰瘍になったのね。
あなたも、気を付けてよ。もう、若くないんだからね。あら、漬物おいし。」
鈴木さん、今は自宅で仕事してるけど会社経営してたんだろ?
「そうよ。建設会社の社長サンだったの。奥さん、言ってたわ。
経営不振なら諦め、もつくけど売り掛け金の回収不能が重なったんですって。
連鎖倒産て、気の毒よね。それでも従業員のために駈けずり回ってたから。」
ああ、聞いてるよ。ま、ぐっといけよ。それで解雇した従業員の再就職先、
頭を下げて回って全員、決めてきたって言うんだから大したものじゃないか。
そっから、立ち直ったのも凄いよな。同じように、不可抗力で会社を閉めて
うつ病になったヤツも知ってるぞ。今は、随筆とか書いているけど。
「人の人生って悲喜交々ね。井上陽水だっけ?人生が二度あればって歌。」
ああ、そんなのもあったな。次の人生も君が居てくれたらいいな。
「飲み過ぎてない?若い子みたいなこと、言ったりして。変なの。
よし、明日は休みだし。今夜は、森伊蔵も開けよっか。付き合うし。」
俺たち結局、子供には恵まれなかったけど、それなりに幸せだったなァ。
「はい、どうぞ。だった、って過去形じゃない?私はhave been + ing よ!」
あ、ありがと。なんだい、そのハブビンプラスアイエンジーって?うまいな、これ。
「現在完了進行形よ。あなたってスペイン語や韓国語は分かるのに。おっかしい。」
庭の紫陽花が、君の手入れのお陰で綺麗だよ。こうやって雪見障子越しに見れば
夜でも華やかだ。紫陽花って、いいよな。長い間、綺麗なままでいてくれて。
薄紅色もいいが、こうやって薄紫の花を見てると、ほろ酔い加減の君のようだ。
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2008年07月20日
スパティフィラムは、しおれていた
No.00177

「だから、無視してないって。ちゃんとメールも読んでいるよ。
分かってるだろ、君だって。今が一番、肝心なんだ。手を抜けないんだ。
だ・か・らァ、君が一番、必要なんだって。分かった、分かった。
あ・い・し・て・ま・すっ!え〜っ?言ったじゃないか。ちゃんとォ。」
「心がこもってないって、言われても。本当にそう思っているよ。
だから、本当だって。君が好きです。必要です。え、ダメ?今夜?
無理だよ。帰れないよ。インドルピーが、動いているのに。
もしかしたら、来週からムンバイへ飛ぶようになるし。」
「だから、ギンバエが飛んでるんじゃないんだって。からかってるな?
君だってプラント開発の仕事をしていたんだから、分かるだろ?
また、始まった。分かっているくせに、そうやって君は茶化すんだから。
そうだよ、ムンバイへ行ってくるんだよ。ムンバイったら、ムンバイ。」
「うん、たぶん1ヵ月くらいになるかな。うん。そう。うん。うん。
とにかく放し飼いの犬には気を付けるよ。噛まれたらオシマイだ。
たぶん、肉体労働になるだろうな。4月に行った時は1泊だったけど、
今度は少しきついな。暑いし。暑いのは苦手だよ。そう、昔から。」
「そうだな。最近、机の前に座っているばかりだから、どんどん、
太ってきたし、よけいにしんどいかな?もともと体力には自身がないし。
でも、少し前から毎朝、5時半からウォーキングとスクワットしてる。
え?そんな時間あるのに、メールして来ないって?ごめん、悪かった。」
「1時には寝るように心掛けてる。でも時々、3時前になるから
5時半に目が覚めても、起きられない時があるんだ。気が付いたら、
もう8時だったり。もう歳だよ。そりゃ、そうさ。人生の2/3が
もう終わっているんだぜ?いったい、何をしてきたんだろうって思うよ。」
「そんな、ことないよ。君が残っているんだ。君が唯一の財産さ。
うん。もちろんだよ。ううん、そんなことないって。忙しいだけなんだ。
一日も忘れたことはないよ。そりゃ、かまってあがられなかったことは、
反省してるよ。本当に悪かった。ごめん。このとおり。謝るから。」
「とにかく悪いけど、来月末までは時間がまったく取れそうもないんだ。
メールもできないかも知れない。もちろん、目を通すけど返す余裕が
まったくないんだ。毎日、いくつも原稿を書いているし。うん。うん。
本当に申し訳ない。埋め合わせは必ず、するよ。だから、愛しているって。」
鉢ごと水につけたら、元気になっちゃった。現金なヤツだよ。
でも、立ち直ってくれるから嬉しいんだけどね。
また出張するから、かまってあげられないけど、メールだけは、
いつも見ることにする。瑞々しい君の元気が、嬉しいんだ。
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「だから、無視してないって。ちゃんとメールも読んでいるよ。
分かってるだろ、君だって。今が一番、肝心なんだ。手を抜けないんだ。
だ・か・らァ、君が一番、必要なんだって。分かった、分かった。
あ・い・し・て・ま・すっ!え〜っ?言ったじゃないか。ちゃんとォ。」
「心がこもってないって、言われても。本当にそう思っているよ。
だから、本当だって。君が好きです。必要です。え、ダメ?今夜?
無理だよ。帰れないよ。インドルピーが、動いているのに。
もしかしたら、来週からムンバイへ飛ぶようになるし。」
「だから、ギンバエが飛んでるんじゃないんだって。からかってるな?
君だってプラント開発の仕事をしていたんだから、分かるだろ?
また、始まった。分かっているくせに、そうやって君は茶化すんだから。
そうだよ、ムンバイへ行ってくるんだよ。ムンバイったら、ムンバイ。」
「うん、たぶん1ヵ月くらいになるかな。うん。そう。うん。うん。
とにかく放し飼いの犬には気を付けるよ。噛まれたらオシマイだ。
たぶん、肉体労働になるだろうな。4月に行った時は1泊だったけど、
今度は少しきついな。暑いし。暑いのは苦手だよ。そう、昔から。」
「そうだな。最近、机の前に座っているばかりだから、どんどん、
太ってきたし、よけいにしんどいかな?もともと体力には自身がないし。
でも、少し前から毎朝、5時半からウォーキングとスクワットしてる。
え?そんな時間あるのに、メールして来ないって?ごめん、悪かった。」
「1時には寝るように心掛けてる。でも時々、3時前になるから
5時半に目が覚めても、起きられない時があるんだ。気が付いたら、
もう8時だったり。もう歳だよ。そりゃ、そうさ。人生の2/3が
もう終わっているんだぜ?いったい、何をしてきたんだろうって思うよ。」
「そんな、ことないよ。君が残っているんだ。君が唯一の財産さ。
うん。もちろんだよ。ううん、そんなことないって。忙しいだけなんだ。
一日も忘れたことはないよ。そりゃ、かまってあがられなかったことは、
反省してるよ。本当に悪かった。ごめん。このとおり。謝るから。」
「とにかく悪いけど、来月末までは時間がまったく取れそうもないんだ。
メールもできないかも知れない。もちろん、目を通すけど返す余裕が
まったくないんだ。毎日、いくつも原稿を書いているし。うん。うん。
本当に申し訳ない。埋め合わせは必ず、するよ。だから、愛しているって。」
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2008年07月10日
夫婦鴨
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No.00167

「母ちゃん、十分、虫を食ったか?」
『うん、腹いっぱいだよ。父ちゃんも、たくさん食ったか?』
「ああ。子供たちが巣立ってから、あんまりたくさん、食えなくなったな。」
『そりゃ、そうだろうよ。二人とも、人間で言うたら定年なんだからね。』
「ああ、食った。食った。段々、田んぼも減ったけど、虫は十分だよ。」
『あたしらが一緒になった頃は田んぼが、どんどん減っていったけど、
最近は、あんまり田んぼが宅地に変わってないみたいだね。
あの頃は、どうなるんだろうって思ったけどね。』
「かあちゃん、実は、そのォ。」
『なんだよ、パチンコに行くならこずかいなんて、ありゃしないよ!』
「最近、パチンコなんか行ってねえじゃねえか。」
『だったら、なんだよ。父ちゃんの頼みって言やァ、こずかいじゃねェか。』
『また、飲み代かい?もう、家で飲みな!知ってるんだからね。』
「な、なんだよォ。知ってるって。」
『3丁目の志をりってェ、店の女将、狙ってんだろ?カラスのクロちゃんに
聞いて、ちゃんと知ってるんだからね。浮気したら承知しないよ!』
「クロの野郎、自分が女将に相手にされねえもンだから、告げ口したな。
とんでもねえ野郎だ。もう少しだってェとこなのによォ。」
『なんか、言ったかい?浮気したら、ひどいからね。分かってるだろうね。』
「違うよ、母ちゃん。浮気なんかしねえったら。母ちゃんだけじゃねえか。」
『さァて、どうだか。まったく、どこで何してるのやら。』
「だから、そうじゃねェんだって。実は…」
『だったら、なんなんだよ。早く、言いなよ。じれったいね、まったく。』
「そう、ポンポン言うなよ。おっかねえなァ。」
「実は、新しいパソコンが欲しいんだよ。VISTAってやつが、よ。」
『パソコンなんて、持ってるじゃないか。2つもどうしようって言うんだい。』
「だから、今のはもう古いから、すぐフリーズするんだよ。だから、よォ。」
『生きた虫、捕まえて食ってるじゃないか。冷凍保存して、どうするんだい。』
「何、言ってるんだ。そのフリーズじゃねえよ。家で仕事する時に要るんだよ。」
『あたしも欲しい、美顔器があるんだよ。スチームが出るんだよ、それ。』
「え、母ちゃんこそ、そんなもの要らねェじゃねえか。しょうがないなァ。」
『シラサギ電化から、また招待状が来てたんだよ。明日、行ってみるかい?』
おい、あの夫婦、また来たぞ。
ホント、分かりやすいですね。景品付招待状を出したら、必ず来ますね。
しかも、必ず何か、高額商品を買って帰るからな。今日も、ぬかるなよ。
「いらっしゃいませ。全国チェーンのシラサギ電化へ、ようこそ。本日は…」
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2008年06月24日
クレソンみたいな
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No.00151

麻衣?あたしよ、あたし。そうよ。酔ってるわ。酔ってちゃ、いけない?
いいじゃないの、暇なんでしょ?どうせ、ドラマか何か。え、ホントに?
何、見てたの?地球温暖化ァ?NHK?何、考えてんのよ、まったくゥ。
そんなの観ても、麻衣の心が温暖化する頃には人類滅亡よ。ング。
結局、連絡なんてないんでしょ?そりゃ、そうよ。麻衣って身勝手だもん。
そ。あたしも。ング。あたしも、身勝手なのよ。一緒よ、一緒。ング。
雄介さんて、商社だったでしょ。生活が派手だったもんね。諦めろってんだァ。
クレソン?クレソンて、ステーキの上に載ってるヤツ?それが、どうしたの?
あれの買い付け、やってたの。そう。よく、分かんないけど。ングング。
でも、いつからになるんだっけ。もう、3ヶ月になるの。そう。
外国に行った訳じゃあるまいし。もう、終わりじゃない。無理よ、無理。
男って、そんなものよ。シャボン玉みたいに、どっか行っちゃうのよ。
でも、麻衣のことだから他にもいるんでしょ?ほうら、図星じゃない。
分かるわよォ。何年になるゥ、あたしたち。ング。なくなちゃった。
ああ、こっちの話ィ。そ、もう10本も、飲んじゃったァ。
だいじょぶ、だいじょぶ。まだまだ、冷蔵庫に。冷蔵庫に、と。あれ?
あと、6本かァ。これが、なくなっちゃったら、あたしの人生も終わりね。
ははははは。冗談よォ、冗談。冗談に決まってるじゃない。
死んだりしないわよ。多情多恨の志穂サマだぞォ。そうだね、多情仏心かもね。
ごめん。もう言わないね。うん。棄てられたりしてないよ。うん、だいじょぶ。
それより、麻衣の話ィ。薬膳料理ィ?そんなの連れて行ってもらったのォ?
いっつもごちそうに、なってるでしょ。次々、要領がいいんだから。ング。
あたしたちって、東京しか知らないじゃない?田舎って憧れるよねェ。
だよね。だよね。ング。だよねェ。で、どうするの?その男は。
そっかァ。麻衣は、気位が高過ぎるんじゃない?その男にしといたらいいのに。
うん。九州に行こうって。でも、前から言ってくれてるけど。うん。北九州。
あのヒト、小倉なのよ。歌にもあるじゃない?ホラ、昔の歌で。ムラタヒデオ?
小倉生まれで、限界育ちィ。口も上手いがァ手も早いって。ング。違ったァ?
もうすぐ、結婚式だから。そう、あのヒトのお嬢さん。遠くで見たことあるわ。
父親似ね。美人だったわ。奥さん、ブスだもん。鼻なんか、上向いててさ。ング。
私と10歳しか違わないのにね、お嬢さん。ずっと若く見えた。ングング。
由紀、由紀って、いつもお嬢さんのことばかり心配してるのよ。頭に来ちゃう。
あたし、言ってやったの。そう、思い切って。
あたしはまるで、ステーキの上に載っているクレソンねって。
そしたら、言われちゃったわ。俺は、栄養価値のあるクレソンが好きだって。
また、やられちゃった。あのヒト、本当に口が上手いんだから。ングング。ぷはァ。
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2008年06月16日
野菜の買い方指南
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No.00143

「シンイチロー、野菜をたべにゃあ、ダメじゃにゃあきゃあ…」
30年以上も昔、こんなテレビCMがあった。
自分の知らない方言であるため、記憶の記述に多少の誤りがあっても許されたい。
家の前で待ち伏せし、抱きつく女子高生とお叱りのメールは未だ、苦手である。
メールと言えばパソコンのフリーメールに、「調教してください」とタイトルがあったが、
大阪市の動物取扱主任者という資格を取得していることが、なぜ分かったのであろう。
女性の名前で来ていたのだが、ペット飼育は業とする気がないために開かず削除した。
お会いして丁重にお断りした方が、よかったのかも知れない。
さて前述のCMであるが、野菜ジュースのCMだったように思う。
クラスにシンイチロー君がいて、よく口にしていたが農家であるためか、
本人も嫌がることなく、会話の1つとしてあしらうことができたような気がする。
自分は農家でもなく、貧しい育ちのために好き嫌いなど言える余地など、なかった。
テレビで大滝秀治氏や萩本欽一氏などが、野菜嫌いを吹聴する。
彼らの人間性を否定するどころか、偉大なる人々の一人なのだが、野菜は食べた方が
いい、と思う。見たことはないが、ビタミンとか言うものが入っているそうだ。
女子高生に抱きつかれるより、野菜を食べる方が好きな自分であった。変?
先日、走らせる車が民家もまばらな地域を走行した時に、道路の傍らに建物を見つけた。
その建物は、横に駐車場を用意して立ち寄り易くしている。
走行も前後、当分に類似商業施設が目に入らぬためについ、立ち寄ってしまう。
心の休息を求めて立ち寄るつもりが、多少の血圧上昇を伴うとも知らず。
休憩と書かれた別目的の、夜に煌びやかな施設も実際には休憩など、なされないらしい。
そこでは野菜を売っていないようだから、自分の興味の対象から外れるのだが。
さても、野菜を売っている施設に戻るが、中には当然にして野菜が並ぶ。
と、思いきや手芸品などが置いてあったりする。これがまた、よくできているのである。
野菜は美しいものと、そうではないものがある。人間界も同様な分類が行われるが、
今は野菜についてのみ供述したい、と思う。と、いうのは美しいものから売れていく、
人間界と同様の判断基準を、この種の商業施設では忘れた方がいいからである。
このノウハウを発見した自分は、パテント申請して一儲けしてやろう、と考えている。
今回、読者だけに無料で伝えるが決して、口外なさらないことを誓約して欲しい。
そして、その内容は「美しいものは余所者」という事実なのだ。
言っておくが、ここは兵庫県である。だが、美しいものはすべて、他府県産なのだ。
大根なんて抜いたら、すぐに食べなされ。3日も経てば、美味なる訳がなかろう。
比べて容姿、見劣りする野菜は、近所の農家が生産した物である。
もてはやされるようになって久しい、道の駅でも同様だ。兵庫県産を何が悲しくて
旅行先で買わなければいけないのか。生産農家の氏名や、顔写真まで添付された
野菜など、つい安心してしまう。野菜好きは、苦労しますよ、ホント。
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昨日の「かすていら」ではクイズに、ご応募いただき感謝いたします
1番食べた、が正解です…正解者の方は、
1.たけもと農場の新米さん2.虎龍さん3.リラコさん4.ふしぎ男さん
5.NIKI&NORA☆さん6.クーピーさんの6名です
5番目の正解者、『NIKI&NORA☆さん』には「かすていら」を、お送りさせていただきます
2008年06月12日
野いちご供養
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No.00139

「母さん、遅くなって申し訳ないです。あ、兄さん。いろいろ、世話をかけたね。」
いいから、早く上がれ。父さんに線香を上げるのが先だ。挨拶は、あとあと。
修三、遠いのにごめんね。疲れているでしょ。あ、そこに置いといて。
ホントに疲れているでしょうに。ハァハァ、言って。おじいさんも喜んでるわ。
母さんはホント、修三に甘いんだから。修三、話があるから後でいらっしゃい。
「あ、姉さん。いろいろ任せっきりで、すみません。」
修三、いいから。早く、お父さんに挨拶しろ。
「はい、兄さん。お父さんに挨拶したら、そっちの部屋に行くよ。」
「お父さん。ごめんよ。弱っていたなんて、ちっとも知らなかったんだ。
9月から、本社に戻れることになったんだ。一緒に住もうと思ってたのに。
純子も賛成してくれたんだ。やっと、日本に戻れるっていうのに。
親不孝だね。シュトゥットガルトなんか、行ったりしたもんだから…」
修三、おじいさんにちゃんと挨拶できた?喜んでいるわよ、きっと。
「ああ、母さん。遅くなってホントにごめんなさい。姉さんも、兄さんも。」
さあさ、母さんもこっちに来てくれ。修三、一人か?
いいから、4人で話せばいいじゃない。その方がいいわよ。
私から言うわ。父さんの財産なんだけど、この土地家屋以外に株式や預貯金の
相続をどうするか、決めなくっちゃね。お互い、いつ会えるか分からないんだから。
「姉さん、何も母さんの前でそんな話を今、しなくてもいいじゃないか。」
だめだ、修三。おまえは今日、戻ってきたばかりだけど姉さんも俺も今日、帰るから。
母さんは、どう思ってるの。遺言書なんてないんでしょ?私、聞いてないわよ。
それより、母さんはこれから、どうするつもりなんだ?一人で暮らすつもりか?
実は、相談なんだが、この家を売って俺たちと暮らさないか。
今は、まだ考えられないわ。ごめんなさいね。あなたたちにまで。また、連絡するわ。
とにかく、早めに決めてちょうだい。じゃ、電話するわ。火の始末、気を付けるのよ。
母さん、俺も失礼するよ。修三、しばらくいいんだろう?母さんのこと、頼んだぞ。
「母さん、おはよう。よく、眠れました?よかったら、散歩に行きませんか?
最期の日に母さんと父さんが歩いた道を、ボクも散歩してみたいんだ。」
おじいさん、ホントはこの坂もつらかったんじゃないかしら。
あ、田辺さんのご主人だわ。あの日も、ウォーキングしてらっしゃったの。
おはようございます。ええ、お陰さまで何とか。これ、末っ子なんです…
あの日の朝、こっちへ曲がったのよ。そう、変わってないでしょ。ここよ、ここ。
ほら見て。花だったのが、実になってる。まだ一週間しか、経ってないのにね。
野いちごの花を見て「ばあさんみたいで、いいじゃないか。」って言ってくれたの。
やっと、意味が分かったわ。冴えないのね。実がなったら、供えるつもりだったのよ。
「でも、かあさん。アリが就いてるね。みんなに、好かれてるみたいじゃないですか。」
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2008年06月05日
野いちごの花
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No.00132

おはよう、もう目が覚めたかい。
ああ、5時になったら目が覚めるよ。
ばあさんは手の方、大丈夫か?そうか、そりゃあ良かった。
もうすぐ、日が昇るけど散歩でも行かないか。
おじいさんは、昔から早起きだったね。私より先に寝て、私より先に起きる。
ずっと、そうだったね。ええ、ええ、私の方はいいですよ。
じゃ、行きましょうか。あ、おじいさん。杖、杖。忘れちゃ、いけませんよ。
まったく、忘れっぽいんだから。ほらほら、しっかり。
まだ、寒いくらいだね。日が高く上った頃には、暑くなるのにね。
あ、おはようございます。はい。お気をつけて。
ばあさん。田辺さんの奥さん、肝臓が悪いそうじゃないか。
一度、見舞いに行ってやらなきゃね。どこの病院だか、聞いてるかい?
田辺さんとこの奥さん、酒豪でしたからね。あの小さい身体で、 よくもまあ
あんなに飲めるもんですよ。何でも、若い頃に関取と飲み比べしたそうですよ。
あれだけ飲んじゃ、肝臓だって悪くなりますよ。ええ、市民病院らしいですよ。
それに、こう言っちゃなんだけど田辺さんのお母さん、大変な人だったし。
あ、こんなところに野いちごの花だね。子供の頃、よく食べたもんだ。
懐かしいねぇ。この花がいいじゃないか。ばあさんみたいで…う。
おじいさん、おじいさん。大丈夫ですか。おじいさん。
だ、大丈夫だ。はァ、はァ、はァ。もう…帰ろうか。
そうですね。帰りましょう。そう、しましょう。歩けますか。大丈夫ですか。
おじいさん、もうすぐですからね。
今朝は、歩く過ぎましたねぇ。
はい、着きましたよ。
しばらく、横になったら、すぐに気分も戻りますよ。
温かいおしぼりで、顔を拭いたら気持ちよくなりますからね。
ばあさん、さっきの野いち…ごは、いつ成るんだ…ろうね。
また、食べた…いねえ…
おじいさん、あまりしゃべらない方がいいですよ。
じっと、してなきゃ。
はい、温かいおしぼり。これで、ふ…おじいさん。おじいさん。
最期は一緒だって、言ったくせに。おじいさんの嘘つき。ありがとう…ね。
野いちごがなったら、供えてあげますからね、きっと。
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2008年05月01日
たんぽぽ
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No.00097

「タンポポさん、やりましたね。」
お世辞にも美味とは言えないラーメンの味、それをまったく変える過程の映画。
来々軒、店の名も「タンポポ」に変わる。総動員は、人望の元に。
涙ぐましい努力、とうとう完成したのだ。
背中の大きく開いたカクテルドレス、背が高く艶やかな女性。
コンサートの後、パーティ会場などに必ず、いらっしゃる。
プロポーションが良く、明るくいつも笑っておられる。
そういう美形を、男性が好むらしい。
美人が嫌いなのではないから自分は、まだ男なんだろう。
周りに男性をはべらせる、主役級の華やかな女性より、
うつむいて健気に働く会場スタッフの方が、魅力的に感じてしまうことがある。
薄汚れたブラウスを見ると、洗濯してあげたくなるくらいだ。
山に咲き、里に咲き、野にも咲くタンポポだが、なぜ愛されるのであろう。
懸命に黄色、決して豪華な花とは言えぬ。
そこはか、となき希望を与える。
介護施設などに命名されていることも、しばしば。名は体を表すものぞ。
まだ、寒さの残る頃から、タンポポは咲き始める。
地面にへばりつくような葉は、底辺にうごめく労働者の躍動を彷彿。
素朴な茎は今にも折れそうに、適度な緊張感を忘れない。
山吹色の花弁は、富裕への虚しい憧れなのか。
植物の営みは当然にしてその花、年中、咲いているわけではない。
臨時収入も一升瓶を囲み、スルメを焼いて歌うのだ。
宵越しの富裕など、夢また夢であり翌日からは労働が待っている。
一時の山吹色、それもまた生きることの一つなのであろう。
目を凝らして見れば、地に這う葉は光合成を干渉しない。
持てる葉緑素、それなりに広げて互いを思いやる、共存共栄を教えてくれた。
天下る人たちよ、ひざまずいて見るがいい。
彼らは、誰一人として自分で太陽を独占しようとはしない。
莫大なメインテナンス費用を拠出し、いくつになっても美しい女性も、人生。
朝に開いて、夕な閉じるささやかな美しさを、
わずかに、3日か4日だけ咲かせる人生も、あるのだ。
それぞれの境遇を自分は、もちろん知らない。
異国の地から、この国に根付くタンポポもある。戸籍を確認していないし、
必要性さえ持ち合わせていない。西洋からお越しか、やまとんちゅうなのか。
この花、カタカナ表記より、平仮名表記が似合うような気がする。
化粧さえ施さない健気さを、自分は手折らず去ることにした。
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2008年04月11日
一日の始まり、始まり
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No.00077

6時に起床。いつものとおり。
トイレに行って、ちゃんと手を洗う。偉いでしょ?でも、誰も褒めてくれないんだ。
顔を洗う。うがいする。もう一回、うがいする。今度は、えづいた。
外出着に着替える。外出するから外出着。蝶ネクタイは、しないから。
右のポケットにはデジタルカメラ。左のポケットに、チューインガム…なんか入れてない。
音楽の時間、「ポケットを叩けば、ビスケットが粉ごな。」と歌った。
先生に叱られた。大人が嘘つきなのは、あの頃に知った。
ポケットの中からお菓子が出てくる服なんか、狸に化かされているに決まってる。
大きく脚を出して、腕を振って。脚の後ろが痛い。運動不足だ。
額に汗がにじむ頃、自分なりに妥協する。
第一目的のウォーキングは、この程度。妥協点は、かなり低い。
おもむろに取り出す、デジタルカメラ。一粒で二度、おいしい散歩。
かっちょええ写真なんか、プロに頼め。自分は、素人なんだ。
センスなんか、持ち合わせていない。神様のばか〜。
バス通り、アスファルトを割って生える草。
名もない、じゃなくて自分が無教養。
小さい花、上から撮影しても、つまらない。素人は、そう思いました、とさ。
道端にしゃがみ込む。撮影。撮り直す。また撮り直す。しばらく、撮り直す。
デジタルカメラを叩いてみれば文明開化の音がする。便利な世の中でして。
大人は、また嘘をつきました。叩けば、落ちて壊れます。因循姑息な音がする。
「どうしました。大丈夫ですか?」
背後からの声。
振り返れば、80歳くらいの紳士がそこに。
行き倒れと間違えられたようだ。バス通りにしゃがみ込むから、いけない。
説明したら、それがカメラか?そんなに小さいのか!どこの会社の?キャノン?
矢継ぎ早に攻めてくる。
デジタルカメラ、と言います。はい、キャノンです。
真面目に答えたら、満足して立ち去る。気遣いに、丁重な礼を告げた。
帰宅。一時間ほど歩いていたようだ。
手を洗って、うがいした。もう一回したら、えづいた。
コーヒーを淹れる為、ガスレンジで湯を沸かす。自分のへそは役立たず。
その間に、パソコンに取り込んだ。
逆に聞こう。こんな画像、どこがおもしろい?
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2008年04月07日
「つくし誰の子」
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No.00073

「つくし誰の子」というドラマが、あった。橋田壽賀子氏の原作である。
自分が10歳くらいだったように思うから、35年ほど昔の話だ。
つくしがスギナの子、であることを本で読み、自分は知っていた。
田舎だったから土筆など特段、珍しくもない。
大人たち、特に女性が「つくし誰の子」と、口にしている。
何だ、この人たちは。
何十年も生きてきて、そんなことも知らないのか。
大人たちよ、もっと本を読め。まったく近頃の、大人と言ったら…
実際に周囲の大人は、何にも知らなかった。
先生たちは別枠だが、少なくとも同居家族の祖父母は無知であった。
祖父は、頻繁にラジオと喧嘩している。敗戦を悔しがっていた。
土筆を採って帰った時、「こんな物が食べられるか。」と祖母に、叱られた。
中学、高校と海に潜って、アワビやサザエを採った。
もちろん、夏の話であるが。
海から近いため、友人と潜ったものである。
その時のアワビ、祖母は料理方法を知らなかった。
翌日、採ってきたアワビについて、訊ねる。
いくら煮ても硬いままなので捨てたらしい。当たり前だ。
祖母は60年以上、海岸線より200m以内に住んでいる。
まったく、親の顔が見てみたい。
育った地形は、リアス式海岸である。
アワビやサザエなど、潜れば採取に造作もない。
その地に、アワビを食べない風習など、
聞いたこともなかった。
家の宗派も知らなかった祖母に、
うちは神道だろうと告げた時、
「おまえは、物知りやのう。」と言われた。
南無大師遍照金剛、祖母の念仏は真言宗であったが。
自分は、自然の物を戴くことに幸福感を覚える。
年に一度でいいから、土筆も対象に入れる。
オリーブ油で炒めた土筆に、コンソメパウダーを少々。
わずかに塩と砂糖を入れた、溶き玉子を絡めて一品、できた。
数十秒だけ、位牌に香りを向けた。生きている者が食す。冷めるまでに下げる。
「おばあちゃん、土筆は食べ物やで。」心で、つぶやく。
戦時中、6人の子供たちと乗り越えた祖母。
土筆を知らない訳がない。下手なせいか、料理が苦手だったようだ。
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2008年04月04日
桜、満開
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No.00070

若い頃は男女の別、関係なく遊んだものである。
大勢でボーリングに行ったり、廉価な焼き肉バイキングで騒いだり。
母子家庭の4人姉妹、3番目が同じ年で仲が良かった。
上の二人が二十歳そこそこで結婚したから、母親は自分たち二人の仲を見て
期待していたようだが、当の本人たちにその気はない。
結婚どころか手を握りたい、などと考えてみたこともない。
仕事が終わり共に、明日は休日。いきなりの電話、夜桜見物に誘う。
「うん。行く行く。」二つ返事とは、このことである。
お母さんまで見送りに出てくる。今夜は帰宅しなくていい、とまで娘に告げた。
意味も分からなかった。無邪気なものである。ああ、もったいなや。
ヘルメットを渡し、自慢のナナハンに乗せる。
大阪府門真市を出たのが20時くらいだった、だろうか。
中央環状線から国道1号線に入り、枚方市から国道170号線、枚方大橋を北上。
高槻市から171号線を走り京都市内に入った。
行き先が嵐山、ということは伝えてある。
お互いのヘルメットに通信機能のような、ハイカラな物なぞあるものか。
たまに止まる信号待ちで、会話することは1文節でしか、ない。
「風、寒いな。」「そうやな。」信号が変われば、バイクは走りだす。
美しい夜桜を湛えた嵐山に、人はまばら。せやかて京都の人間も、忙しおす。
バイクを停めて、自動販売機の前。「何がいい?」
桂川を前にして座り、熱い缶を両手で持つ二人。
何を話したか、覚えてもいない。右手には、観月橋が照らされていた。
「そろそろ、帰ろうか。」「うん。」30分くらいも、居ただろうか。
同じ道を走る。太い道の方が気分のいい、夜のバイク。
ご存知の方も多いだろう。名神高速道路で、北行きからは見えないが
帰りの国道171号線、南下すれば長岡京市。左手にはラブホテル街である。
夜にネオンが映える。目に入らない訳がない。
お読みの方には残念ながら当時の二人、景色の一部でしかなかった。
バイクの二人乗りなんだから、背中に密着するのは当たり前。
でも、当人たちにその意識はない。ただひたすら走るだけ。無言のもとに。
「あんたら、早いな。」その母親は、目を丸くしている。
「綺麗やったで。いっぱい、いっぱい咲いててん。」娘は報告していた。
「ほな、またな。」「うん、ありがと。気ィ付けて帰ってなァ。」
さっき行った嵐山方向の中間、枚方市の寮に帰った時に、日付が変わった。
先日、桜を見て思い出した。若いっていいな。
気が付けば、あちらこちら桜花満開である。
咲いた年頃の娘を持つ親の気持ち、今頃になって考える。
自分たちの関係は、友達のまま。
止めてくださる妙心殿もいなければ、散り際さえも知らない男が今、ここにいる。
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2008年03月22日
椿
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No.00057
ベルディの高名なオペラに、「椿姫」というのがある。
原題は「 La traviata(堕落した女)」である。
当初の上演は、不評だったらしい。
結核で命を奪われるヒロイン役が、悲劇に似つかわしくない体型であったそうな。
首からぽとり、と落ちる椿は武士の世界で嫌われていた、と聞く。
一方、時代劇の文芸作品では庭に植えた椿が、出てくることしばしば。
また、人間不信になる。嘘つきめ。
今日も働かないことに、決めたからな。
椿三十郎とか、いう映画があったような気がする
もう終わったのか、まだ上映していないのか知らない。
そう言えば、最後に映画を見に行ったのはいつのことだったか。
たまには映画も、見に行かなくちゃ。来てはくれないし。
寒い時期、山々に鮮やかな色が消える。
自分も、その寂しさが似合う歳になった。
「モーツァルトが分かる歳、になりました。まだ、ブラームスが分かる歳ではありません。」
など、と訳の分からない答え方をしていたものである。
未だに、ブラームスは理解できていない。
あなた、ブラームスはお好き?と故サガン女史は、その昔にくどかれたそうな。
にわかに、暖かく感じるようになった。山を歩いてみる。
目を惹く艶やかさは、椿か。
山にはまだ寒さも残る、こんな季節から何と健気なものか。
勝手に擬人化しているが、当の椿は何を考えているものぞ。
車のトランクに、いつも剪定鋏が入っている。
山中を走行、美しい花があればさらっていこう、と企てる。
野の花は、そっとしておけばいいのだが、
自分だけを責めないでくださいな。
切ってきた花は水切りして、しばらくは花瓶に生ける。
花瓶の話は、また明日。
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2008年03月14日
路傍のつぼみ、朝露に輝く
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昨日は主人が、いい加減なことを申しまして
誠に、あいすみませんことでございます。
悪い人間ではないのでございますが、
何と申しますか虚言癖がございまして。
ええ、昔は働き者で優しく、それはもう自慢の主人でございました。
あの事件さえなければ、と思いますと…
ええ、ええ、話しますとも。
よくぞ聞いてくれました。話せば長いことながら…
弟家族が、遊びに来ていた時でございました。
急に思い立ったように、主人が言い出したのでございます。
みんなで電車に乗り、少しばかりの遠出をいたしました。
急なことでございましたので、お弁当の用意など間に合いません。
降りた駅から少し歩く公園、途中にあるコンビニに立ち寄りました。
おにぎりや飲み物をいくつも、買い求めました。
実に天気のいい日で、ございました。
芝生に座り、みんなで食事となりました。
好きなおにぎりを手に取り、とても楽しかったものでございます。その時までは。
主人が口に運んだおにぎりには、何と梅干が入っていなかったのでございます。
その時の、主人の驚きを思いますと、今でも…うっうっ
申し訳ございません、取り乱したりいたしまして。
それからでございます。
主人は人を信じなくなってしまったのでございます。
如何にも誠しやかに話す癖がついたのは、
それから、のことでございます。
お勤めでございますか。ええ、辞めずに続けてくれています。
たまに働くだけで、給料もボーナスも、そして恩給まで出るそうでございます。
何でも、たいして働かなくとも、よろしいそうでございます。
コンビニですか。ええ、主人は好きですよ。
よく、おにぎりを買っているようでございますよ。
相変わらず梅干ばかり、ね。
え、私でございますか。
いえ、そんな。もう、若くはありませんわ。
ええ、昼間は主人もおりませんし。
い、今からですか。そんな、急におっしゃっられても。
お待ちくださいませね、支度いたしますわ。
それは、大丈夫です。主人は、気付きませんわ。
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2008年03月13日
路傍の雑草、朝露に輝く
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早朝に散歩。吐く息も白く、身が引き締まる。
いや、嘘はいけない。身はメタボでも、気は引き締まるのだ。
日毎に温かくなる今日この頃、貴家に於かれましては益々、ご清祥の事と拝察し
お慶び申し上げます…などと出しもしない手紙の冒頭文など、思い浮かべる。
思えば、つい先日まで厳寒の候というべき日々に震え、
訪問販売に怯え、飛び出す猫に驚き、行く末を案じて暮らしたものだ。
早朝の散歩も草木に霜が降り、歩く地道も霜柱。
かかるおりしも、一人の浪士が雪を蹴立ててサク、サク。
は、サク、サク、サク、サク…
いかんいかん。散歩なのに、早足になってしまった。
貧しい家に育った。
事業に失敗した父は、随分と無理をしたのであろう。
おそらく自身でも気付いていたに、違いない。
痛みをこらえて再建に奔走していたようだ。
幼い私を残して、あっけなく世を去った。
もともと苦労も知らず育った母は、
道を失ったのであろう。
分岐点も父が手を引くことによって、迷わずに歩けた、というだけだった。
台所にあった料理酒が、母の心を慰めていた。
やがて、酒がなくては生きていけない人になる。
子供の目にも惨めなアルコール中毒は、
美しかった母の面影など、どこにもなかった。
私は生きるために、歯を食い縛った。
夕方になり、大人たちが仕事を終えた頃。
沈む夕陽がガードを朱く染めた。
道行く大人に、声をかける。
「おじさん靴、磨かせておくれよォ。」
1回磨いて50円でも、
なかなか、客になってくれやしない。
前に置いた椅子代わりのリンゴ箱に、やっと座ってくれたおじさん。
「坊や、感心だねェ。親御さんは、何をしてるんだい。」
懸命に磨きながら、答えた。
「お母さん、病気。お父さん、死んじゃった。」
「そうかい、坊や。悪いことを聞いちゃったねェ
これで何か、あったかいモンでも食いな。」
なんと千円札を握らせてくれた。
「すげェ。おじさん、これ。
この前、出たばかりのお札だろ。
オイラ、知ってるぜ。この人、伊藤博文って言うんだろ。
いいのかい、こんなにくれて。」
道の傍ら、キラリと光る。朝露に輝く雑草であった。
雑草のように生まれ、やがては雑草のように枯れていくであろう自分。
こんな寒い中、散歩してるんだから
くだらないことの一つも、思い付くってもんだ。
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2008年02月12日
金のなる木
簡単に挿し木ができる、と年末に教えてくれた人がいた。通る人が触れて落ちた枝を、再起に期待して持ち帰った。いろんな名前があるらしいが、「金のなる木」が知れ渡った名称のように思う。昔は、成長と共に5円玉を通している姿をよく見かけ、陳腐と思う本音をなかなか言えなかったものだが今、思うにやっぱりいただけない。鉢いっぱいに5円玉を生らして「金のなる木」なら安っぽく、かと言って穴あき硬貨は50円玉が関の山なのである。もし穴のあいた金貨などが現行通貨なら、豪勢なものではないか、と考える。その代わり外に置けば盗難の危惧を払拭できないであろう。
できのいい息子や娘が各界で活躍、「お父様、これは些少ですが・・・」などと言われ、団扇を左手に持ち替えるのが「金のなる木」ではなかろうか。
幼少のみぎりキャッチボールで投げた球に、「おい、母さん。この子は天才だァ。」などと言っている親馬鹿の後ろで音、折れた枝から落ちた5円玉がチャンリン。
やがてトンビが産んだ鷹は切磋琢磨、檜舞台で活躍してくれる。CMに引っ張られるようになれば契約金以外の収入まである。
隣町では女の子がアイドルデビューし、家族の生活レベルがどんどん変わっていく。どちらも出来のいいお子たちでありまして。昼寝から覚めた世のオヤジは大あくびの後、涙目のままつぶやく。「あ〜あ、どっかに金のなる木はないかなァ。」
山に登っては採ってきた物を植えよう、とする。失敗しても懲りない。小振りな鉢がいくつかある。年末に挿し木をした「金のなる木」が根付いている様子。途中から何本か、白い根を伸ばして生きること懸命な「金のなる木」。主亡きとて春な忘れそ・・・
←ランキング入りに、ご協力いただければ幸いです2008年02月05日
衝動買い
部屋のアスパラガスが伸びてきた。盆休みに滋賀県・醒ヶ井宿へ旅行した時に、衝動買いしたものである。岡山県・備前長船でも洋蘭を買った。衝動買いである。家庭を持っていた頃、おいしそうに見えた物を衝動買いしてしまった記憶がある。妻が喜んでくれたかどうか、記憶の倉庫に見当たらない。
頼りなく伸びるアスパラガスも気難しい蘭も、それ自体がなくても人は生きていける。それなのに衝動買いしてしまう。
サラリーマン時代、電車通勤を経験した。読書に程よい通勤距離であった。「貧しき人々」からドストエフスキーに入った自分は重ねていくうち、「罪と罰」あたりで傾倒していることに気付く。「カラマーゾフの兄弟(上巻)」を読み終え、中巻を購入するにあたり文庫本のそれが600円くらいだったように思う。おおよそ昼食代だ。
くだらないことを思い付いた。惰性で摂る食事より、何と価値のある書なのか、と。その日は昼食を抜いた。
かなり収入があった頃である。昼食代に困窮していたわけではないことを、申し添えたい。
果たして、上巻以上にのめり込んだ中巻であった。下巻の購入にも同様。食事や文庫本の価値感より、生きることの価値感に震撼した。
物欲が満たされつつある現代に、物はなかなか売れぬ。客に要らない物まで、衝動買いさせた商売人が勝ち残る。ボーッと生きている自分は、食用にもならぬアスパラガスさえ買い求めていた。今日も霧吹きで湿らせてやった。何も考えず、ただボーッと。
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