給湯室
2008年09月03日
浮き草稼業
No.00221
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しかし、ビジネスホテルってやつは狭いもんだね。
ベッドがあって、机があって…風呂とトイレだ。テレビは見ないから要らないよ。
まァ、ずっとここに住み着くわけじゃないから、構やしないんだけどね。
気楽なもんさ、ね。まったく。荷物を置いたら、まず洗濯さ。
昨日の下着を風呂で洗濯するんだよ。移動して、着いたばかりだからね。
エアコンつけてりゃ、すぐ乾くよ。いつ帰れるか、分かりゃしないんだからね。
そのために持ってきたバッグじゃないか。着替えしか入ってないよ。
パソコンの方が重たいくらいだよ。こっちは書類もあるしね。
よく見りゃ、ベッドが大きいこと。
一昔の出張、と言えば狭いベッドだったがね。シングルサイズって言うのかい?
ここはダブルサイズだね。家でも、このサイズだから嬉しいよ。
これで、今夜もぐっすり眠れるよ。たぶんね。
別に、起きなくたっていいんだ。
朝が来なくたって、構うもんか。その方が、気が楽だよ。
正直、俺は疲れちまった。まったく、因果な商売だね。用地買収なんて。
そうだよ。ワンワン、泣かれちまって。許しておくれよ、これも仕事なんだ。
「別に君がいなくたって、行政代執行もできるんだ。」
お上の言うことは簡単だよ。ホントに行政代執行なんてやられた日には、大変だよ。
テレビで放映されてさ、言い訳なんて通用しないからね。公益優先なんだ。
悪者になるのは、みんな住民なんだよ。早く手を打っていた方が、いいと思うがね。
昨日の住民もさ、下手な芝居やってもこっちはお見通しなんだよ。
あんたにとっちゃ、名案かもしれないが、こっちは百戦錬磨。
海千山千、魑魅魍魎が跳梁跋扈さ。
もう、その手は使い古されてる。みんな使ってるんだ。考えることは一緒だね。
ご先祖様の墓だとか、代々ここにって言ったって、役人は転勤族なんだよ。
土着の発想なんて、ありゃしない。親の墓参りだって、しないヤツがいるよ。
だから、泣いたってわめいたって、結果は同じ。
そんなことより、ここらで手を打っときな。悪いようにはしないよ。
こっちで、シナリオなら書いてやるよ。教えたとおりにやりな。
あんたたちだって、結局は金じゃないか。少しでもたくさん、欲しいんだろ?
「銭金の問題じゃない。」って最初はみんな、そういうんだよ。
「誠意を見せてくれ。」って無茶を言っちゃ困る。そんなものはありゃしないよ。
世の中、そんなもんさ。俺が帰らなくったって、近所は気付かないさ。
普段から、こんな生活さ。もう随分、帰ってねえし。さあて、今夜も行って来よう。
また、「鬼」呼ばわりだよ。でもさ、俺だって見ず知らずの住民に恨みはないんだ。
少しでも、たくさん立退き補償金、ふんだくってやるからよ、安心しな。
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あとがき
先日、長期出張で各地を泊まり歩きました。
新潟県新潟市、石川県七尾市、岐阜県大垣市、福島県福島市、新潟県上越市…
新潟市などはまた、同じホテルに宿泊しました。
もともと、遠くに行くことが好きなので、それなりに楽しかったですよ。
私が立退き交渉人なのか地上げ屋なのか、ご想像にお任せします。
最後まで、お読みいただきありがとうございました
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しかし、ビジネスホテルってやつは狭いもんだね。
ベッドがあって、机があって…風呂とトイレだ。テレビは見ないから要らないよ。
まァ、ずっとここに住み着くわけじゃないから、構やしないんだけどね。
気楽なもんさ、ね。まったく。荷物を置いたら、まず洗濯さ。
昨日の下着を風呂で洗濯するんだよ。移動して、着いたばかりだからね。
エアコンつけてりゃ、すぐ乾くよ。いつ帰れるか、分かりゃしないんだからね。
そのために持ってきたバッグじゃないか。着替えしか入ってないよ。
パソコンの方が重たいくらいだよ。こっちは書類もあるしね。
よく見りゃ、ベッドが大きいこと。
一昔の出張、と言えば狭いベッドだったがね。シングルサイズって言うのかい?
ここはダブルサイズだね。家でも、このサイズだから嬉しいよ。
これで、今夜もぐっすり眠れるよ。たぶんね。
別に、起きなくたっていいんだ。
朝が来なくたって、構うもんか。その方が、気が楽だよ。
正直、俺は疲れちまった。まったく、因果な商売だね。用地買収なんて。
そうだよ。ワンワン、泣かれちまって。許しておくれよ、これも仕事なんだ。
「別に君がいなくたって、行政代執行もできるんだ。」
お上の言うことは簡単だよ。ホントに行政代執行なんてやられた日には、大変だよ。
テレビで放映されてさ、言い訳なんて通用しないからね。公益優先なんだ。
悪者になるのは、みんな住民なんだよ。早く手を打っていた方が、いいと思うがね。
昨日の住民もさ、下手な芝居やってもこっちはお見通しなんだよ。
あんたにとっちゃ、名案かもしれないが、こっちは百戦錬磨。
海千山千、魑魅魍魎が跳梁跋扈さ。
もう、その手は使い古されてる。みんな使ってるんだ。考えることは一緒だね。
ご先祖様の墓だとか、代々ここにって言ったって、役人は転勤族なんだよ。
土着の発想なんて、ありゃしない。親の墓参りだって、しないヤツがいるよ。
だから、泣いたってわめいたって、結果は同じ。
そんなことより、ここらで手を打っときな。悪いようにはしないよ。
こっちで、シナリオなら書いてやるよ。教えたとおりにやりな。
あんたたちだって、結局は金じゃないか。少しでもたくさん、欲しいんだろ?
「銭金の問題じゃない。」って最初はみんな、そういうんだよ。
「誠意を見せてくれ。」って無茶を言っちゃ困る。そんなものはありゃしないよ。
世の中、そんなもんさ。俺が帰らなくったって、近所は気付かないさ。
普段から、こんな生活さ。もう随分、帰ってねえし。さあて、今夜も行って来よう。
また、「鬼」呼ばわりだよ。でもさ、俺だって見ず知らずの住民に恨みはないんだ。
少しでも、たくさん立退き補償金、ふんだくってやるからよ、安心しな。
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あとがき
先日、長期出張で各地を泊まり歩きました。
新潟県新潟市、石川県七尾市、岐阜県大垣市、福島県福島市、新潟県上越市…
新潟市などはまた、同じホテルに宿泊しました。
もともと、遠くに行くことが好きなので、それなりに楽しかったですよ。
私が立退き交渉人なのか地上げ屋なのか、ご想像にお任せします。
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2008年07月25日
ゴルフが簡単に上手くなる方法
No.00182

「砂尾課長、横月常務がお呼びです。」
「ありがとう。何の件だろう?あ、槍手君。報告書、最高の出来だね。今、行く。」
ああ、砂尾課長。まァ、掛けたまえ。どうかね、2課で取扱いの浄水器は?
これからトリハロメタンがますます、話題になる。今は好調だな。
しかし、この夏が終わればどうするつもりだ?まさか、無策ではあるまい。
「はい。このまま9月切までは、強気で推進します。」
強気って言ったって何をするつもりだね。また、人吉専務と画策しているのか?
「専務には、お引き立ていただき感謝しておりますが、画策など滅相もありません。」
本当にそうかね?君と専務は、同じ大同商威銀行からの出向組だったじゃないか。
専務は、また東日本ブロックの天皇に返り咲きを、画策しとるそうだ。
しかし斜陽の老いぼれに、今さら何ができるというんだね。君も風を読みたまえ。
まあいい。ところで君はゴルフは嫌いかね?
「嫌いでは、ありませんが時間がありません。休日は家族と過ごしております。」
ほう、マイホームパパとか言ったな、そういうの。大したものじゃないかね。
しかし本社営業2課の課長ともなると、息抜きも必要じゃないかね?
次の日曜に、小金井でプレーするんだが来ないかね?
「申し訳ございません。次の日曜は娘が連れてくる人と会う、約束がございまして。」
ほう、娘に手を出した男を、虐める魂胆か。悪い趣味だな。その次の日曜は?
「重ね重ね、申し訳ございません。女房の実家へ行かなければなりません。」
分かった、分かった。もういい。ワシとゴルフなどしたくないんだな?
「下崎課長代理、本社の横月常務から、お電話が入っております。」
「あん?本社の無駄飯喰いがなんだァ?まあいい。君、外線につないでくれ。
はい。お電話、替わりました。下崎でございます。あ、これは横月常務。
お疲れ様でございます。いつも若々しい、お声で。はい。それは、もう。はい。」
「え、本社研修ですか?はい、分かりました。来月から1ヵ月ですね?
もちろんです。本社の空気は我々の憧れで、ございます。ゴルフですか?
ええ、大学からずっと。え、ラウンドですか?こ、これは光栄です。
はい、とりあえずセットも持参します。はい。はい。かしこまりました。はい。」
「ねェ、聞いた?下崎のエロおやじ、本社転勤かもよォ?」
「聞いた、聞いた。本社の同期に確認したのよ。そしたら、本社の営業2課で
課長が左遷の噂よォ。業績もいいし、部下の信頼が厚い課長なんですって。」
「じゃ、また横月常務の横車ァ?」「そ。無理が通れば、道理は引っ込むものよ。」
「いやァ、常務。さすがですね、目の覚めるようなショットでした。
シングルの方とお手合わせさせていただいて、本当に嬉しいです。
え、違うんですか?騙されませんよ。あんなショットを見せられて。」
君、なかなか口が上手いね。そうそう、本社の課長をやってみないか?
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あとがき
その昔、接待ゴルフというものがありました。お得意先を早朝、迎えに伺い
コースでは絶対に、いいショットを打ってはいけません。その後、ご馳走して
夜は歓楽街のフルコース。見送る際に、取引を約束させます。
しかし、企業内でも接待ゴルフは、存在しているのかも知れません。
あくまでもフィクションです。限りなく、ノンフィクションに近い…
最後まで、お読みいただきありがとうございました

「砂尾課長、横月常務がお呼びです。」
「ありがとう。何の件だろう?あ、槍手君。報告書、最高の出来だね。今、行く。」
ああ、砂尾課長。まァ、掛けたまえ。どうかね、2課で取扱いの浄水器は?
これからトリハロメタンがますます、話題になる。今は好調だな。
しかし、この夏が終わればどうするつもりだ?まさか、無策ではあるまい。
「はい。このまま9月切までは、強気で推進します。」
強気って言ったって何をするつもりだね。また、人吉専務と画策しているのか?
「専務には、お引き立ていただき感謝しておりますが、画策など滅相もありません。」
本当にそうかね?君と専務は、同じ大同商威銀行からの出向組だったじゃないか。
専務は、また東日本ブロックの天皇に返り咲きを、画策しとるそうだ。
しかし斜陽の老いぼれに、今さら何ができるというんだね。君も風を読みたまえ。
まあいい。ところで君はゴルフは嫌いかね?
「嫌いでは、ありませんが時間がありません。休日は家族と過ごしております。」
ほう、マイホームパパとか言ったな、そういうの。大したものじゃないかね。
しかし本社営業2課の課長ともなると、息抜きも必要じゃないかね?
次の日曜に、小金井でプレーするんだが来ないかね?
「申し訳ございません。次の日曜は娘が連れてくる人と会う、約束がございまして。」
ほう、娘に手を出した男を、虐める魂胆か。悪い趣味だな。その次の日曜は?
「重ね重ね、申し訳ございません。女房の実家へ行かなければなりません。」
分かった、分かった。もういい。ワシとゴルフなどしたくないんだな?
「下崎課長代理、本社の横月常務から、お電話が入っております。」
「あん?本社の無駄飯喰いがなんだァ?まあいい。君、外線につないでくれ。
はい。お電話、替わりました。下崎でございます。あ、これは横月常務。
お疲れ様でございます。いつも若々しい、お声で。はい。それは、もう。はい。」
「え、本社研修ですか?はい、分かりました。来月から1ヵ月ですね?
もちろんです。本社の空気は我々の憧れで、ございます。ゴルフですか?
ええ、大学からずっと。え、ラウンドですか?こ、これは光栄です。
はい、とりあえずセットも持参します。はい。はい。かしこまりました。はい。」
「ねェ、聞いた?下崎のエロおやじ、本社転勤かもよォ?」
「聞いた、聞いた。本社の同期に確認したのよ。そしたら、本社の営業2課で
課長が左遷の噂よォ。業績もいいし、部下の信頼が厚い課長なんですって。」
「じゃ、また横月常務の横車ァ?」「そ。無理が通れば、道理は引っ込むものよ。」
「いやァ、常務。さすがですね、目の覚めるようなショットでした。
シングルの方とお手合わせさせていただいて、本当に嬉しいです。
え、違うんですか?騙されませんよ。あんなショットを見せられて。」
君、なかなか口が上手いね。そうそう、本社の課長をやってみないか?
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その昔、接待ゴルフというものがありました。お得意先を早朝、迎えに伺い
コースでは絶対に、いいショットを打ってはいけません。その後、ご馳走して
夜は歓楽街のフルコース。見送る際に、取引を約束させます。
しかし、企業内でも接待ゴルフは、存在しているのかも知れません。
あくまでもフィクションです。限りなく、ノンフィクションに近い…
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2008年07月09日
しのぶの自転車
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No.00166

「お、おは、おはようございます。金沢さん、この雨の中もチャリで出社ですか?」
『能美君、おはよ。大丈夫、着替えるから。タオルも置いてあるし。ありがとね。』
「ちょっとォ、しのぶゥ。この雨の中もレインコート着て、自転車ァ?」
『おはよう、早苗。このレインスーツ、高性能なんだぞ。大丈夫、大丈夫。』
「金沢さん、おはよう。今日もチャリンコ出勤かね。相変わらず、すごいな、君は。
電話くれたら、迎えに行ってあげたのに。よく、濡れなかったね。」
『課長代理、おはようございます。お気遣い、ありがとうございます。
私、自転車が好きなんです。両親も、自転車が好きだったんですよ。』
「そうか、君のご両親は確か、5年前に…これは、済まなかった。」
『いいんです、課長代理。いつも明るい課長代理に、湿っぽいのは似合いませんよ。
見てください、窓の外。さっきまで、あんなに降ってたんですよォ。
課長代理、それより午後の本社会議、期待してますよ。報告書、できています。』
「ああ、昨日、机の上に置いてくれてたね。今朝、見たけど完璧だったよ。
優秀な部下を持つと、楽だよ。性格はいいし、美人だし、言うことなしだ。
あまり早く、コトブキ退社なんて言わんでくれよ。会社は、君が必要なんだから。」
『分かりませんよォ、課長代理ィ。いい人ができたら、すぐ辞めちゃうかも〜。』
「おいおい、君が結婚したら、ウチの独身連中がみんな、悲しむぞ。
さて、そろそろ行ってくるか。今日は、たぶん戻らない、と思うから
みんな、後は頼んだぞ。七尾、河北商事は連絡ついたか?今日も電話しとけ。
輪島、能登物産に顔を出しておけ。能美、用意はできたか?いくぞ。」
課長代理は部下の能美社員を連れて、本社に向かった。明るく健全な職場である。
経常利益も前期の不可抗力を、挽回しかねない勢いであった。
人間の能力は、不思議なものである。働きやすい環境であれば、能力を発揮する。
賢明な経営者とは、自らがすべて行動するのではなく、働きたくさせるものなのだ。
『おとうさん、おかあさん、ただいま。今、お線香をあげるね。
今朝は、すごい雨だったの。レインスーツはお母さんのヤツ、さすがね。
動きやすいし、蒸れないし。サイズも同じだったもんね。でも、髪は無理ね。
会社で整えるの時間が、かかっちゃった。心配しないで。みんな、いい人ばっかり。
車にすればいいのにって言われるけど、ダメね。どうしても乗れないの。
一生、ペーパードライバーね。おとうさんとおかあさんの命を奪った車なんか、
私には運転できないの。だから、ずっと自転車に乗ることに決めたの。
だって、おとうさんもおかあさんも、よく二人で遠乗りしたでしょ。
おとうさん、おかあさん。私、やっぱり雄太さんに、ついて行くことに決めたの。
広告代理店の会社を立ち上げたばかりなんだけど、がむしゃらに頑張っているわ。
ずっと、年上でバツイチなの。二人とも、気に入ってくれたはずよ。生きてたらね。
私が、ついていてあげないと、いけないような気がするの。ね、いいでしょ?』
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2008年06月28日
喫茶店のランチタイム
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No.00155

「桶川さん、喫茶店でいいかな?」茂原部長、ここでいいですよ。
「えっと、ヒレカツセットか焼き鮭セットだって。それでもういい?」
私は好き嫌いがないですし、茂原部長のお好きなものでいいですよ。
「あれ、いっぱいかな?」テーブルの女性が、移動を申し出てくれた。
「久しぶりに来てくれたのに、ごめんなさいねェ」年配の店員が、女性客に言う。
30前と思われる女性は、快くカウンターに移ってくれた。茂原と桶川は、
女性に各々会釈、テーブル席につく。「そっちにどうぞ。腰が悪いんだ。」
取引先にソファ側を勧められて、恐縮を伴った着座の桶川だったが。
3人の女性店員は、いずれも若くなく最も若いと思われる40歳くらいの店員が、
2人にオーダーを聞きにきた時、後で座った隣のテーブルから「アイスコーヒー。」
その女性のオーダーが、カウンター奥へ通ると同時に、小さなバッグが飛んだ。
右斜め前の女性が、ソファの上に投げたのだ。店員が、奥のテーブルに呼ばれる。
店員が2人に、やっとオーダーを聞いた頃、隣の女性はコーヒーを半分くらい
飲み終えていた。カウンター奥の女性が携帯電話を片手に、やおら立ち上がる。
別の客たちの頭上、壁の展示絵画を、携帯電話のカメラ機能に収めて回った。
「桶川さん、他の代理店は最近、どうなの?何か変わったことは、あった?」
「お待ちどォさま。ヒレカツセット2つです。」一番、小柄な店員が運んできた。
茂原が割り箸を割り、いきなりカツにかぶりつく。桶川は両手を合わし、静かに端を割る。
桶川が左手で椀を持ち、味噌汁に口を付けたあと、椀を盆に戻した。
「本庄君には裏切られたよ。彼には入社当時から、随分と目を掛けて来たつもりなのに。」
本庄係長のことは、いい部分しか知らないんですよ。当たり障りのない発言では、あった。
しかしながら、桶川の中にある情報は、それ以上のものでもなかった。
気配を感じ、桶川は右斜め前の女性を見た。60歳くらいだろうか、その女性、
あろうことか、そこで化粧を始めた。パタパタとファウンデーションを塗り始める。
呆れた桶川は、目を釘付けにすること暫時。移した視線は、カウンターの店員に合う。
済まなそうにも思える店員の表情、当の本人は気付きもしない。もちろん、手を止める
様子もない。それどころか、次の行動に滞りない。化粧の匂いが、料理の香りを汚す。
わさびをウスターソースで溶いて、バルサミコビネガーを掛けたような空気が漂う。
「許せないよね。業務上横領、と言うより人間性を疑うよ。非常識だね。」
茂原の関心は、目の下にある盆の上に載った物、そして本庄係長の使い込みだった。
非常識ですよね!既に桶川は、その言葉が誰に向けられているのか、自分でも
分からなくなっていた。女性は、次なるプロセスを黙々と、そして忠実に実行する。
女性の化粧を、こんなに長い時間、見ることができたのは生まれて始めての
極めて貴重な経験であった。そして、その経験は不快感を伴う経験であった。
最後の煮豆を、箸でうまくつまんで口に運んだ時に、女性の行為が終わった。
支払いを済ませ、何食わぬ顔をして出て行く。匂いだけ、置いていった。
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2008年06月25日
盗人たちの会話
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No.00152

「ポポロの姐御、今夜こそやるんでしょうね。」
「姐御と呼ぶなって、あれほど言ってるだろう。このバカやろう。」
「プニプニは、バカだなァ。いつも言われてるのに。先代が売れて2ヶ月、経つんだぞ。」
「あのヒトのことは、もう言うんじゃないよ。今は、あたいが元締めなんだからね。」
「だって、プププの兄貴がいた頃は俺たち、ひもじい思いなんかしなかったぜ。」
「だから、おまえはバカなんだよ。あのヒトのやり方が、いつまで通用するって
思ってんだい。エリアマネージャーが変わってから、というもの、店長が遅くまで
帰らないからじゃないか。そんなことも分からないのかい?バカだよ、まったく。」
「ホント、プニプニはバカなんだから。頭の中に、何が詰まってんのよ。」
「うるせェ、ピッピ。おまえだって、頭の中身はパンヤじゃねえか。」
「何だって。プニプニのバカと一緒にするんじゃないよ、まったく。」
「何だとォ。おめえ、いつも偉そうに言いやがって。下手に出てりゃ、まったく。」
「だって、プニプニはホントにバカだから、ドジばっかり踏んでるじゃないのよ。」
「おめえこそ、サンリオ大学を出たってホントかどうだか。
サンリュウ中学の間違いじゃねえのか?バニラとマニラ、間違えるし。」
「サンリュウ中学は、プニプニじゃないの。まったく一度、頭の中を見てみたいわよ。」
「うるさいなァ。何、騒いでんだよォ。大人のくせに。眠れないじゃないか。」
「うるせぇ。フニャミーは寝てろ。子供の癖に、大人の話に首、突っ込んで。」
「プニプニは、ピッピに絡み過ぎだよ。ホントは、好きなんじゃねえの?」
「いいから、寝てなさい。プニプニも子供相手に、何よ。バカなんだから、ホントに。」
「言われなくたって寝るよ。うるさいんだから。仕事は、夜中じゃないか。」
「ホントにね。フニャミーは、寝なさいね。その時は、起こしたげるから。」
「だいたい、ピッピがこの店に当たりをつけてから、半年だぜ。まったく。」
「あたしだって、危ない橋を渡りたくないわよ。だから、今日まで、待ったんでしょ。」
「ペテロの兄貴、今夜で間違いないんですかい?スイーツの入れ替えってのは。」
「ああ、間違いない。俺は、この耳でちゃんと聞いたんだ。店長が電話してるのを、な。」
「ほら、みなさいよ。頭の中がパンヤの、くせに。ホントにバカなんだから。」
「うるせぇ。ヒトのこと、いつもいつも、バカにしやがって。俺だって、そのうち…」
「二人とも、いい加減にしろ。レジの集計が終われば、俺たちの話し声も聞こえるぞ。」
「ペテロ兄貴は、いつも冷静だなァ。遠目も利くし、すげえや。」
「プニプニとは、大違いだわ、まったく。フニャミー、起きなさい。もうすぐよ。」
「うるせぇ、ピッピ。ペテロ兄貴が静かにしろって言ってるじゃねえか。」
「し!店長が帰るよ。静かにしな。よし、鍵を閉めた。今だ。挟まれるなよ。
いいかい、ぬかるんじゃないよ。口を大きく開けるんだよ。口の周りに付いたら
次の日には、アリの攻撃が来るんだからね。アリが付いたら、ゴミ箱行きだよ。
シロップには、手を出すんじゃないよ。垂れるからね。狙い目は、アズキだよ。」
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2008年06月13日
13日の金曜日
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No.00140

あっ、こんな時間。ご飯食べてる時間、ないや。あれ、あれ。携帯どこ、どこ?
靴下、靴下。穴、開いてるし。ま、時間ないからいいか。途中で、買おうっと。
かちゃ。とんとんとん…ずるっどんどんどん、どて。「痛ァ、手ェ、すりむいたァ。」
あ、時間ない。時間。あ、今日は、生ゴミの日だった。また、忘れた。でも時間が。
「あ、バス、待って〜。」「待ってくれ〜。」あ、止まってくれた。良かった。良かった。
「す、すみません。」「すみません。」「お、降ります。降ります。」「あ、すみません。」
あれ、あれ、定期券が。「あ、すみません。」「すぐ、すぐ。」「い、いくらですか。」
え〜、携帯電話も、定期券も忘れてるじゃないか。電車も、切符を買わなきゃ。
「おはようございま〜す。」「あ、おはよう。」「おはようございま〜す。」
「おは…え?会議?そうだった。推進キャンペーンの…」「前橋課長、怒ってたって?」
ああ、高崎君。随分、偉くなったね。重役出勤かい?立派、立派。君は、立派だよ。
まあ、ボクはあっさりしてるからね。いつまでも立ってないで。座れば?
じゃ、みんなには申し訳ないけど、やっと、役員さんもお越しだし、最初から。そう。
赤城さん、高崎サマにもう一度、説明して上げてもらえる?高崎サマに。
ありがとね。何度も、すまなかったね。みんな1時間も早く、来てくれたのにね。
さっきの意見、藤岡君。ホントに申し訳ないけど、高崎サマに聞かせてあげて。
それで、高崎君。頼んでおいた人口動向のグラフは人数分、用意してる?
見たところ、手ブラなのは気のせいかな?目の錯覚かな?もうろくしたかな、ボク?
え、できてないの?すごいね〜。立派だね〜。チャレンジャーだね〜。
それって、嫌がらせなの?何か、恨みでもある訳?ボクが、何かしたっけ?
あのね、高崎君。人間と言ったらね。う〜ん、人間、全部がそうじゃないんだけどね。
まァ、その…人は忘れやすいもの、と言うか。そ、そうだね。脳の回路と、言うか。
人間は、必要な物に対して。もちろん、物だけじゃなくて事柄、と言えばいいのか…
ボクがこのキャンペーンにどれだけ、賭けてきたか。分かってるの?そもそも…
「高崎君たら、朝からずっと、何で電話に出ないのよ。私が、終わりにしよって言ったら、
頭下げて、謝ったの日曜日のことよォ。もう、これなんだから。
だいたい、そういうところが飽きちゃったのよ。後輩の癖に、生意気なんだから。
今日が何の日か、忘れてるのかしら。夕方、出なかったら私たち、おしまいね。」
はァ。終わった。終わったァ。疲れたなァ。今日も一日、おしま〜い。
渋川ァ、気分転換に行こうぜ。おい、高崎も行くだろ。いいから、来いよォ。
「え?藤岡先輩、また、行くんですかァ?」いいから、いいから。行こうぜ〜。
は〜い、お疲れ〜!かんぱァい。しかし、前橋課長の話は、長ェなァ。寝てしまうぜ。
はるなで〜す、よろしくゥ。あ〜この、おにいさん、暗い〜い。元気、出してェ。
じゃあ、かんぱァい。あっ、ごめんなさい、ごめんなさい。こぼしちゃった。
みどりちゃ〜ん、おしぼり。早くゥ。ごめんなさ〜い。背広、汚しちゃったァ。
脱いで、脱いで。あっ、ごめんなさァい。破けちゃったね…
はい、お会計28,000円ですぅ。あれ?財布、財布…悪い、高崎ィ。
今日は払っといて。カード、持ってるだろ?ありがとォ、また来てね〜。
「今日は、最低の日だ。13日の金曜日だもんな。13日、13日。あっ。」
高崎は、思い出した。今日は、危機を迎えている彼女、ひとみの誕生日だったのである。
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2008年06月03日
酔っ払って、ミクシィ
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No.00130

娘も寝たし、さあて焼酎、焼酎と。
旦那が、帰ってくるのは1週間先だよ。まァ、あたしゃ、慣れっこだけどね。
パックの焼酎、いいちこ。これが一番だよ。「下町のナポレオン」だってさ。
うまいこと、書くもんだね。こいつなら安くて、次の日も残りゃしない。
ふん、かわいい顔して寝てる。あんたのためなら、あたしゃ、命も惜しくないよ。
明日も保育園で、男の子を泣かしてくるんだね。やっぱり、あたしの子だよ。
それで、年頃になったらまた泣かすんだ。今度は、別の意味で、ね。
さあさ、パソコンの電源を入れようかね。どれどれ?
まず、今日のニュースだね。おや、また値上がりかい。どうなるんだろうね。
あのヒト、死んじまったのかい。まだ、若いのにね。死んじまったら、おしまいだよ。
ありゃまた、女と男のモメゴトかい?よくやるよ、まったく。
中州で働いてる時ゃ、いろんな男が言い寄ってきたけど、こっちは商売だよ。
思い出しちまったよ。同僚に連れられて来たけど、何にもしゃべらず飲んでたな。
居酒屋で、あれだけしゃべらねえ男も少なかったね。気にもかけなかったよ、そん時ゃ。
次の日、一人で来てさ。いきなり、嫁になってくれってさ。
今、思い出してもおかしいよ。昨日だって、ろくに話もしてないのに。
他の客がしん、となったじゃないか。すぐ後で野次られても、もう一回、
嫁になってくれって。何でだろうね。その場で、はいって応えちまった。
仕事も何だか知らず、医者だなんて後で知ったよ。勤務医も大変だね。
旦那の妹に教えられて、さ。ミクシィなんて始めてみたよ。いろいろ教えてくれるって。
おや、たぬぽんが日記投稿してるね。何だって?Tシャツ、かぎ裂きじゃないか。
洗濯機に、剪定鋏が入ってたって?ドジだね。どうやって、そんなもの入れるんだい。
洗濯槽が、ごとごと言ってたのに手を入れても、原因が分からなかったってさ。
いつも思うけど、結構なドジだよ、こいつは。ヤモメ男は、やっぱりダメだね。
そうだ、フェルトの切れっ端で、と。ふんふん、こんなのちょろいもんだよ。
どうせなら、こっちもふざけて投稿しちゃえ。デジカメ、デジカメ。
おっと、充電が切れそうだな。ちょうど、いいや。これ、撮ったら充電しとこ。
ピクセル、下げてと。お、バッチリじゃん。これで、よし。はい、投稿と。
だいたい、男なんて要らなかったんだよ。娘の育児を話せたら、それで
良かったんだ。今さら男にゃ興味ないし、旦那、一人で十分さ。
でも、こうやってミクシィも始めてみると、おもしろいね。
中性的な会話なら、別に楽しいし。飲みながら、やってると気分転換になるよ。
Tシャツの繕いに、と思って作ったけど、あたしゃ、これをどうするんだろね。
ありゃ、欲しいって書き込んでるよ。まったく、物好きだね。
まァ、いいや。喜んでくれるなら、あたしも嬉しいよ。こんなもので良けりゃ。
10分もかかってないからね。明日、送ってやろうか。悪いやつじゃ、なさそうだし。
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2008年06月01日
ファミレス店長の休日
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No.00128

レジのコンピュータ不調で、夜の来店客数が合わない。
金額とレシート記録は合っているから、また手入力で入れなければならなかった。
エリアマネージャーに報告メールを、送信する。随分、遅くなったが明日は休みだ。
帰宅途中、新聞配達のバイク音を聞いた。ソファに横になったら、眠ってしまったようだ。
妻は一人娘を連れて、実家の手伝い。以前から聞いていた。夕方には戻るだろう。
見上げれば、もうすぐ正午ではないか。手を伸ばし煙草に火を点け、灰皿を見付けた。
大きく深呼吸する。CDラジカセの電源を入れる。キース・ジャレットが流れてきた。
しばらく、コンサートも行ってないのか。最後に妻と、外食したのはいつだったろうな。
妻も娘も、外食が好きだが自分は、休みの日まで行きたくもない。
考えてみれば、ファミリーレストランになぜ就職したのか分からない。
先週も、いろいろあった。暴れる客や、騒ぐ客。ズル休み従業員に、客とのトラブル。
新しく入った子なんか、声が小さいと客に注意されたら、泣き出してしまった。
キッチンに向かい、インスタントラーメンの袋をつかんだ。
煙草をくわえたまま、だらしなく袋を左右に引っ張ったが、破れない。
さらに強く引っ張った時、飛んだ中身の乾麺がダイニングテーブルの上を滑っていった。
勢いでくわえ煙草の灰が、ダイニングテーブルの上に落ちた。
軽く舌打ちした自分が情けなかった。無意識に片手鍋をつかんでしゃがみこむ。
フローリングの床に落ちた2つの塊と、飛び散った粉々を鍋に入れる。
片手鍋に半分ほど水を入れて、蓋をしてガスコンロの火を点けた。
湿らせた布巾でテーブルに落とした、煙草の灰をかたずける。とても汚らしく感じた。
掃除機を探して、コンセントをさす。アタッチメントを床用のままで、吸わせた。
妻は、綺麗好きだ。そこだけ掃除すれば、足りる。掃除の苦手な女もいたな、そう言えば。
掃除機を戻そうとした時に、鍋が吹き始めた。慌てて掃除機をしまい、鍋に戻る。
キッチンに向かう途中、ダイニングテーブルの角で横腹を、しこたまぶつけてしまった。
「くうゥ…」うずくまっている間に、鍋が吹きこぼれてガスの火が消えた。
ぴぃんぽ〜ん。「は、はあい。」普段、出ないものだからインターホンを使うことに
気が回らず、玄関に向かう。横腹を押さえながらドアを開けてみた。
「はらひれ新聞です。ご主人、一ヶ月だけ取っていただけたら、今なら何と…」
「すみません。うちは、ふにゃふにゃ新聞と決まっているんです。」横腹を押さえながら。
その時、キッチンからけたたましい。「ぴぴ〜、ガスが洩れていませんか。ぴぴ〜…」
何だか様子がおかしく、ここは退散。勧誘員の判断は、正しかったのかも知れない。
振り返り、キッチンに戻ろうとした時、足を上がり框に引っ掛け、鈍い音を立てる。
廊下のフローリングに、頭から倒れてしまった。その女の声は、人を気遣うこともなく、
自分の主張だけを繰り返す。左手で横腹、右手で頭を押さえ、キッチン横の窓を開けた。
こんな時、換気扇を回せばスイッチの火花で爆発しかねない。冷静な判断の、
自分を褒めてやる。水から煮てしまったインスタントラーメンが、まずかった。
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2008年05月10日
TANQUERAY
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No.00106
昨日の地震、けっこう長かったわね。お店のバックバー、大丈夫だった?
あの子は起きなかったわ。知らなかったよって今朝、ケロってしてるの。男の子ね。
昔、大きな地震を経験してるから、思い出しちゃった。
マスター、もう一杯ちょうだい。
あの時、まだあの子も保育園だったわ。その地震で目が覚めたの。凄かったわ。
大勢の被災者が出たわ。こんな時も、あの人は傍にいないんだって思った。
この子は私が守るしか、ないんだって。
もちろん、後で来てくれたわよ。優しい人だもん。ぜえぜえ、言いながらね。
自分の家族も、ちゃんと守っているくせに私の心配も、忘れない…
そんな人だったのよ。あの人って。マスターは会ってないか。もう随分、経つのね。
外回りしてて結構、お客さんにも受けてたみたいね。いろんな物を戴いたりしてた。
おっかしいのよ。最初に私に聞くの。要らないって言えば家に、持って帰るんだって。
家の鍵、あの人も持ってるの。帰ってみると、いろいろ冷蔵庫に入ってたりするの。
そりゃ、嬉しかったわよ。決まってるじゃない。一応、女よ。
石油ストーブが大嫌いで、自分の家では使わないくせに、灯油とか買っててくれるの。
言わなくても、少ないなって思った頃に、玄関を開けたら置いてあるの。
そうよ。そんな人だったわ。とにかくマメで、何でも気が付いたわ。
奥さんを愛してなかったみたいだけど、大切にしてたのは確かね。
私の息子と一つ違いの、お嬢さんがいて、それはそれは大切にしてたみたいよ。
マスター、グラス空いちゃったァ。…坊や、他を当たれば?いくらでもいるでしょ。
いろんな男がね、女の酒飲みは嫌いだって言うの。でも、あの人は違ったわ。
迷惑をかけなきゃ、いいんだって。酒飲み女より、煙草を吸う女が嫌いだって、
言われちゃった。私から煙草を取り上げた男は、あの人だけだった。
あの子が煙たがっても私、吸っていたのにね。…いいわよ、勝手に座れば?
いろんな酒を教えてくれたの。酒のこと、何でも知ってたわ。強くないのにね。
一口だけ飲んでみるかって私に、必ず飲みかけたグラスを差し出すの。
合わなきゃ飲まなくていい、って言うのよ。必ずね。
原因?私が、他の男と遊んじゃったのよ。あの人ったら、責めなかった。
私、この緑色が好きなの。ロンドンの消火栓なんですって、この形。
あの人ったらね、責めるどころか「ごめん。元気でな。」って鍵を置いて行ったわ。
悪いのは私なの。ちょっとばかし、若い子にナンパされてね。それで、つい。
そう、あの人が好きだったのよ、これ。いつもロックで飲んでた。
あの子の父親から、親権を取られそうになった時も、家裁まで送ってくれたわ。
中に入れないから、こう言えって。言われたとおりにしたら、取られずに済んだの。
この人となら、やっていけるって思ったわ。あの人だけは違ったの。
マスター、なくなっちゃったァ。グラスの中身…も、あの人も。
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2008年05月09日
GLENFIDDICH
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No.00105

人の好みなど過ぎ行く時間とは非連携ながら、変化するものではなかろうか。
決して自己弁護をしているわけでも、国選弁護士を信用していない訳でもない。
いろんなものをその興味の対象、とし時の経過と共に思い出に変わっていった。
実存主義に派生する落ちこぼれ扱いしている訳でもなければ、方法序説でもない。
時代背景も変われば、体調も変化していく。既に老醜の自分を鏡の中に見る。
若い頃は体重3万5千t 、身長40m 、セブンと呼ばれた頃もある。しゅわっち。
いかん、いかん。内緒であった。よい子の夢を岩石落とし、のこ〜なごな。
さてさて酒など特に、好みが変わったことなど呟いてみる。
就職して上司に、ビールを飲まされる。何とまずい。喉で飲め、と言われても。
うだつも上がらぬはずである。こんな毒水を、金を出して飲んでいるのだ。
20歳頃は、とにかくスナックへよく、連れて行ってもらった。
先輩、上司が入れ替わり立ち替わり連日、自分を連れ出していく。
年上のホステスたちが、うっとおしくて仕方がない。
最初はビール、う〜まずい。次は水割りが毎度のこと。こいつらアホか。
おまけにカラオケが下手、ときた。ナツメロばかり、教えられる。
水割りはサントリーオールド。金持ちは、リザーブをキープ。自分は払わない。
どっかのママさんがくれたリザーブを、ヘッドホンハンガーにした。
何年かすると、ワインを覚えた。きっかけなど、とうに忘れてしまった。
シャブリの好きな人がいて、ブルゴーニュの白を飲み始める。赤の方が合う。
行ったことのないボージョレ、9つの村。飲むワインで巡ってみる。何と安上がり。
25歳くらいからボルドーの赤に、傾倒。最も、世話の焼けるワインだ。
30歳前後で、バーボンが好きになった。仕事人間の自分。怖い物知らず。
飲む酒も、明るかったに違いない。とにかく、いろんな洋酒を胃に流し込む。
ショットバーで、端から順に入れるようオーダーしていたのも、この頃である。
35歳頃からか、スコッチに凝り始める。ブレンデッドウイスキーの芳醇さ。
ラベルに横滑りするうち、いつの間にやらシングルモルトにこだわり始める。
思えば、グレンフィディックとは長い付き合いだ。冴えない友人のようなもの。
鹿の谷を流れる川、緑色した三角柱のボトルをこよなく愛す。
いろんな酒を楽しむようになった。ビールもよく飲む。誰だ、まずいなんて。
特に誰かの影響を受けて、好みが変わることは少ないようだ。
勧められたら、それを飲む。先日、ゆっくり飲む機会があったが、別の酒。
その人が全部、飲むと思ったからだ。酒癖の悪くない、酒飲みは好きである。
何か、質問はありますかな?そこの3列目の方、なぜ筒を持っているのかって?
人に持たせたら、美人局という犯罪行為なのぢゃ。他に質問は、ないかの?
中身は、どうしたのかって?酒はアルコールで、できておる。
実は、いつの間にか蒸発してしまったのぢゃよ。いつの間にか、な。
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2008年05月03日
有朋自遠方來、不亦楽乎
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No.00099
「友遠方より来る、また楽しからずや」と孔子が言ったそうな。
自分は聞いていないから、又聞きである。これほど、いい加減なものはない。
背中に指文字、振り向いて反対側の背中に同様の行動。
伝達ゲームは、どこかで歪みを生むものだ。ああ背中が、痒い。
前もって言ってくれれば、家も片付けておくものを。
突然、来て「カステーラでござい」とか、重たい菓子折りでも渡すつもりだな?
ぶつぶつ言いながら、片付け始める。独居中年が日頃も掃除なぞ、するもんか。
普段の生活、怠惰の積み重ね。利に利を生んで、今じゃ10両にも成ってるんでい。
そんなァ借りたお金は、確か1両2分。おとっつぁんの病に、高麗人参が効くって
神戸屋さんがおっしゃるから。返すのはいつでもいいからって。
やかましい。借りた物を返すのは当たり前でぃ。返せないなら…
いかん、いかん。テレビの音が大きかったようである。
誰がやったの。掃除機に謝りなさい。はい、ごめんなさい。
などと、一人くだらないことなど言いながら、掃除機の電源など入れるも、
いみじうあはれにをかしけれ。掃除のスタートである。第3コーナーを回り、
狭い所などノズルを取り替えるも、あやしうこそものぐるをしけれ。
だいたい、掃除と女は嫌いである。いくら精一杯のことをしてやっても、
次の日になると同じことを望んでくる。欲にキリがないのだ。
その点、料理は楽である。いくらでも思い付くから、手が勝手に動く。
いつか宝石店に行き、「手が勝手に動いた」と言おう、と思う。
掃除はねェ、やりだすと止まらないのよねェ。やるとこだらけだしィ。
ダメねェ。ダメなのねェ。えっ、もう紙パックがいっぱいに?
買い置きは確か、押入れの…っと。あら、これが最後なん?
また、買っておかなきゃ。そうそう、ラップのミニも買わないと。
ハイハイ。今、出ます。まだ、早いけど?ハイハイ、荷物ね。ご苦労様。
誰、からだろ。生モノって書いてあるけど。とにかく冷蔵庫に入れとこっと。
手を洗って。あれ、ハンディソープがない。イヤンソープ…ああ、しょうもない。
掃除機も片付けて、雑巾かけてっと。まァ、ざっとこんなもの。
お掃除、おしまいっと。やればできるじゃない。1時間も経ってないし。
昔から、あんたはやればできる子って言われたし。皆に言うらしいけど。
しかし、何でこんなに掃除しなきゃいけないの。
だいたい、あのヒトは口うるさいから。後で何を言われるやら…あっ、来たみたい。
よく、来たね。場所は、すぐ分かった?車は、どこに止めた?
いいよ、そこは大丈夫だから。後で、念のために見ておくね。
さあさ、上がって。何か、冷たい物でも飲む?熱い方がいい?
…こんな風に歓迎されたら、少し前にさんざ悪口を言われていたのである。
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2008年04月21日
血液型
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No.00087

「血液型は、何型ですか。ん〜とA型でしょ?」
聞かれると素直なせいか、純真無垢なせいか、アホだからかB型です、と正直に答える。
「やっぱり、そうかァ…典型的なB型ですよ、ね。」
典型的、と思うなら聞くな。聞くまでA型と思っていたくせに。
こんな会話、実際に何度も経験した。
血液型に大して興味はないのだが、話題の一環だ。
どうだっていいじゃないか。一応、自分の血も赤いのである。
猿じゃあるまいし、ヘモシャビンじゃなくてヘモグロビンなのだ。知らんけど。
農耕民族の血液型であるA型は、日本人の4割らしい。
弥生文化の優性遺伝らしいが、西日本に多いようである。
一方、縄文文化の優性遺伝、と言われる狩猟民族のB型は東日本に多い。
うどんも好きなのだが、そばも好きである。これは、関係なさそうだ。
仕事を几帳面にこなす性分の自分は、よくA型と言われる。では、A型がいいのか。
A型なら几帳面で、O型は大雑把。B型はムラがあり、AB型は二重人格らしい。
細かいことを気にしない人がO型に多く、B型は独創的なのか。
A型とB型の双方、遺伝したAB型はどちらの性格も現れるために、そう言われる。
街頭で献血を呼びかけている。
自分は血の気が多いので、可能な限り献血をしている。
お金と同じで、余っているから人にあげる。それで救われる人もいるのだ。
ん、何か間違えたかな。まぁ、いいや。
大阪には吉本新喜劇という、国会中継の次におもひょろいものがある。
正確には吉本興業株式会社という、笑わせることで世界征服を目論む、
世にも恐ろしい会社なのだが、茶番劇が吉本新喜劇であることは周知の事実であろう。
ここの芸人さんたちが、いい加減なことをして笑わせてくれる。
もしかして吉本新喜劇の方々、全員がB型ならそれもいいではないか。
本当にB型が、独創的でいい加減でマイペースなら練習など、できないだろう。
彼らは実に綿密な練習に、アドリブを上書きして嫌な事を忘れさせてくれる。
時々、出ておられる間寛平さんのネタで「血ィ、吸うたろか〜」と言うのがあったが。
選挙費用を含めると、莫大な税金を無駄遣いして昼寝をしている国会議員や、
ヤジを飛ばしているだけの国会議員なんかより、
彼らの方がよほど、国民に貢献しているような気がする。
ヤジを飛ばす議員は、子供の頃に「おクチ、チャック!」と言われたに違いない。
知人でB型の人なのだが、聞かれたらA型と答えるらしい。
ビジネスの世界では、几帳面と固定概念を持たれるA型が有利なんだ、と。
どうせ分かりゃ、しないんだ。それもありかな。そうだ、これからそう言おう。
「ハイハイ、A型でございますですよ。」献血の時、以外は。
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2008年02月29日
看板息子 (チビ太)
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飲食店などで経営者の娘や、うら若き女性店員。
すこぶる愛想がいい。
男性でなくとも、また行きたくなる店。
たいていの方に、記憶があるのではないだろうか。
それを看板娘、と言うらしい。
店の看板、と同等の宣伝効果が望める訳だ。
その時、彼女の風貌や顔の造り、など二の次だ。
いわゆる「おかめ」サンであっても、
立ち居振る舞いや表情に、客は和む。
社会人になった時、総務課長が皆に告げた。
「とにかく、元気よくして欲しい。君たちの取り柄は元気だけなんだ。」
多分に欠礼なのだろうが、妙に納得してしまった。
事実、数ヶ月は給料泥棒なのだから。
看板娘が存在するのだから、看板息子が存在してもよかろう。
兵庫県三田市、街外れに佇む喫茶店。
階段を上がって、狭い入り口の横にウッドデッキが施されている。
下の道を知人が通れば、吠えて客寄せ。帰る客には愛想吠え。
中の店さえ当然、広くない。ある方、と仕事で三田市に赴くのが月に一度。
必ず立ち寄るその店だが、街外れに関わらず毎度、先客がいる。
コーヒーだけでなく、店は何やら温かい。
ドアを閉めた時、看板息子が近寄ってきた。
喉を撫でてやれば、軽く愛想吠えを忘れない。
たぶん来月も遠回りして、コーヒーを飲みに行くのだろう。
花の唇、月の眉。面は抜ける白さか、髪はあたかも烏の濡れ羽色。
こぼす笑みで礼など告げられようものなら、身体中の力さえ抜ける思い。
出入り業者、今度の担当者。眉目秀麗、性格温厚でこなす仕事も卒がない。
今度、来る時は何か一つネクタイでも買っておいてあげよう、などと給湯室でひそひそ話。
自分の若い頃を述べているのかどうか、今回は抵触しないことにする。
看板娘に必ず、声をかける方がいる。たいてい、どこにもいるはずだ。
特に発展性を望む、下心がある訳でもなかろうに。
遊女は客に惚れた、といい客は来もせで、また来ると言う。
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